第18章 背伸び
「これだ」
キラが控えめに尋ねたところで、セブルスが緑色の何かを取り出した。
「えっ」
「これが箱の中に入っていた。魔法薬の材料だと思うんだが…」
「…え…」
大真面目にそう言うセブルスにキラは面食らった。
「WASABIというらしい」
「は、はぁ…」
目の前に置かれた山葵は、どこからどう見てもやっぱり山葵でしかない。
「見たことがない植物だ。何かの根のようにも見えるが。後でスプラウト教授に見てもらおうと思っている」
「……」
キラは言葉が出なかった。
ダモクレスは一体何を考えているんだ、とその顔を見てみれば。
「ん? なぁに?」
にっこり、満面の笑顔。
「……いえ」
どうしたものか。
いや、もしかしたらこの山葵は実際に何かの材料になるかもしれないし。
(でもなぁ…野菜、なんだけどなぁ…)
言うべきか言わざるべきか。
キラが迷っていると、セブルスが先に口を開いた。
「もう朝食は済んだのか?」
「あ、いえ」
「…待っているんじゃないか?」
スッと細長い人差し指がキラの後ろを示す。
それに釣られて振り返れば、キャリーとアニーがこちらをじっと見ていた。
「あ…! それじゃ、また…図書室で!」
「あぁ」
「またねー」
パタパタと走り去るキラの後ろ姿。
その揺れる黒髪をセブルスとダモクレスは無言で眺めていた。
「ごめんね、先に食べててくれてよかったのに」
「あら、いいのよ」
「どうだった…?」
「たぶん、喜んでもらえたと思う」
「ふふ。良かったわね。これで安心して朝食が食べられるわ」
キャリーはそう言ってライ麦パンに手を伸ばす。
「ありがとう、二人とも」
キラの目の前にポタージュスープとライ麦パンが置かれた。
「それじゃ、いただきます」
「「いただきます」」
キラの癖…というより日本の慣習である手を合わせて、のポーズをキャリーとアニーはこの二年ほどで真似をするようになっていた。