第18章 背伸び
そんな話をしていると、目線の先にセブルスの姿が飛び込んできた。
「キラ、行ってきなさいよ」
「あ、うん」
キャリーに背中を押され、キラは小走りで彼を追う。
席につく寸前の彼に声をかけた。
「あの、セブルス。おはようございます」
「あぁ…おはよう」
体ごとこちらを向いたセブルスに、キラは後ろ手に隠していたプレゼントを目の前に差し出す。
ぐい、と突き出された箱をセブルスは咄嗟に受け取った。
少し重みのあるそれ。
「あの。お誕生日、おめでとうございます」
「……」
自分の顔色を伺うような瞳のキラに、セブルスは無言で箱のリボンに手をかけた。
しゅるり、と解けたリボンをテーブルに落として蓋を取る。
(…うん…?)
紙の緩衝材に埋もれていたのは、深い青色の器、だった。
そっと手に持てば、ずしりと重い。
けれど、冬の真っ暗な夜を煌々と照らす幾億の星空を思わせるそれにセブルスは魅入った。
美しい、という言葉以外に何と言おうか。
高台は茶色いレンガ色だったが、器の下部は一見すれば真っ黒だがよくよく見れば紫金石のような色合い。
徐々に青が強くなり、真ん中辺りでセルリアンブルーとなり、またフチに近づくに従って紫金石色へ変化する。
ラピスラズリにも似ている。
しかし、これは一体何の器だろうか。
取っ手がないし、中々に大きい。
セブルスが片手で掴む分にはちょうど良いが、キラでは両手が必要となるだろう。
花器であろうか。
それにしては高さがないし、くびれてもいないのでこれは花を飾るには向いていなさそうだ。
しげしげと見つめてから、セブルスはキラを見る。
「これは…?」
「日本のティーカップです。マグ、というのがいいのかもしれませんが…私たちは湯呑み、と呼んでいます」
祖父にお願いしたのは、暗い青か藍色の綺麗な色合いの湯呑みだった。
萩焼の中でも青萩と呼ばれる、美しい青色の焼き物である。
母が気に入って使っている湯呑みがこの青萩で、キラもいつかは自分のものが欲しいと思っていた。
「夜空みたいで、綺麗じゃないですか? 私、この色合いが大好きなんです」
「…ああ…」