第18章 背伸び
スリザリン寮の冬場は極寒とも言える。
もちろん談話室には暖炉が複数あって、四六時中薪がくべられてはいるのだが、ここは石作りの地下である。
夏場はひんやり涼しくて快適なのだが、冬は底冷えする。
スリザリンの生徒は冬になると他寮の生徒より二倍ほど分厚い靴下を履き、ボアのついたブーツを履く。
それはキラも同じで、朝ベッドから抜け出すと一番にタイツ、次に分厚い靴下、そして普段の靴より2サイズほど上のブーツを履くのが日常である。
「うう、寒い…」
部屋に暖炉があるとはいえ、寒いものは寒い。
高学年になれば暖炉の火を操ることもできるのだが、キラたちにはまだまだ先のこと。
キラは両腕を激しく上下にさすりながら、ハンガーにかかっている制服に手を伸ばした。
今日はセブルスの誕生日である。
机の上にはいびつながらも自分で包装したプレゼント。
(気に入ってくれるといいんだけど)
そういえば…ダモクレスは結局何にしたんだろう、とふと思い出す。
(まさか、本当に山葵にしたのかな…)
山葵用の卸し金があるのだろうか。
調合のためのすり下ろし器で代用はできるのだろうが…いくら綺麗に洗っていても、キラは口をつけられないな、と思った。
山葵と同じような植物の根をすり下ろすのであればまだしも、昆虫の硬い節足や亀の甲羅、カチカチに固まった魔法生物の糞なども、すり下ろす…というか削って細かくする場合がある。
新品でなければ許容はできない。
(…ダモクレスならやりかねないかなぁ…)
そんなことを思いながら分厚いローブを羽織る。
同じく丸っと着込んだアニーとキャリーと共に、キラは朝食のため大広間へ向かった。
「あっつあつのポタージュが飲みたいわ」
「温かい紅茶も…」
「私はおでんが食べたい」
「ODE…なにって?」
「ODEN、日本食で…うーん、鍋で煮込んだゆで卵とかジャガイモとかが入ってるんだ」
竹輪やがんもどきの説明が面倒で、キラはその辺りを省いた。
しかし一番食べたいのはたっぷり汁を吸い込んだ厚揚げである。
「冬に食べるんだけど、すっごく美味しいんだよ」
「まぁ、そうなの」
「食べてみたいな…」
「本当、一度二人を日本に招待したいよ」