第18章 背伸び
誕生日の朝、セブルスは慎重に慎重を重ねてベッドから体を起こした。
去年のようなことがあっては堪らないからだ。
(……異臭はしないな)
枕元には何も置いていない。
さすがのダモクレスも異臭騒ぎには懲りたのだろう。
ベッドを覆うカーテンをそっと開けて机を見てみれば、見たことの無い箱が置いてあった。
セブルスはキンと冷たい空気に身震いしながら机へと向かった。
まずは杖を手に取って一振り。
小さくなっていた暖炉の火が大きくなる。
再度杖を振れば、暖炉で暖められた空気がゆっくりと部屋の中を廻っていった。
ほんの少し寒さが和らいだところで、セブルスは箱へと手を伸ばす。
ネイビー色の蓋を取ると、中には見慣れぬ緑色の茎のような、根っこのようなもの。
(なんだこれは…)
恐る恐る手に取る。
上部には葉のようなものが生えている。
何の植物だろうか。
セブルスはしげしげとそれを見つめ、鼻を近づけてみるも匂いはいまいちしなかった。
箱の中のカードを取り上げて中を見てみる。
『HAPPY BIRTHDAY!!』
その文字の下に、これはWASABIだよ、と書いてあった。
「WASABI…?」
名称がわかったところで、これが何なのかさっぱりわからない。
セブルスは首を捻りつつ箱の蓋を閉めた。
ダモクレスからの誕生日プレゼントは"山葵"そのものである。
というのも、昨年初めて煎餅を口にしてから二人は日本食に興味を持ったため、ダモクレスは何かここでも手に入る日本っぽいものがないか、とキラに聞いたところ"山葵"が挙がったのである。
日本でよく使われる山葵は西洋山葵と言って、もともとはヨーロッパ原産の種である。
現在では主に北海道で生産されている。
英名はホースラディッシュと言い、マグルの世界では一般的な食材である。
そのため母が魔法使いであるセブルスと純血であるダモクレスには縁が無かったようだ。
ただの野菜とは露知らず、何かの魔法薬の材料だろうか…とセブルスは考えを巡らせていた。