第18章 背伸び
「キラ! 今週の恋ハリはすごいわよ!!」
キャリーがキラの眼前にスクラップブックを広げていた。
「ええ?」
「あたしも読む…!」
パッと素早い動きでアニーがキャリーの手からスクラップブックを奪い取った。
「あ……それ、私のなんだけど…」
今、女子の間で大人気なのが日刊預言者新聞で週に一度連載されている小説『恋を謳うハリアー』だ。
ラビュルトという高級娼婦が青年と恋に落ちるお話だ。
キラにとってはほんの少し難しい英語であるが、とても勉強になるし、美しく気高いラビュルトは憧れであった。
新聞の連載小説なのに高級娼婦が主人公だなんて、と一時は物議をかもしたらしいが、休載にはなっていない。
「……アニー、読み終わったらすぐに返してね」
切り取ってすぐ読むはずだったのに、最後になってしまった。
はぁ、と再度ため息をついてセブルスを見た…つもりだったが、すでにそこにセブルスはいなかった。
「ああ、もう…」
別にセブルスをじっと見つめたからといって、湯呑みでいいかどうかの答えは出ないのだが。
(……)
あれから、リリーとジェームズの言葉が浮かんでは消え、浮かんでは消えしている。
もし、キラがセブルスに聞いたら。
『あなたは死喰い人になってマグルを殺しますか?』
彼は何と答えるのだろうか。
そもそも答えなど聞きたくないから、尋ねることはできない…いや、しない。
アニーから戻ってきたスクラップブックに視線を落とす。
考えない。
考えたって、意味がない。
キラにとってセブルスは、冷たそうに見えて面倒見の良い兄のような存在、それに違いはないから。
ぐるぐるもやもやした暗雲から逃れるように、キラは小説の世界へと入っていった。
あのラビュルトのように、あの青年のように、風を切って飛び回れたら。
このうじうじした気持ちを吹き飛ばせそうなものなのに。
悲しいかな、箒は苦手なキラであった。