第17章 エメラルドの輝き
何も知らなかった頃は、全然帰ってこない両親に怒っていた。
けれど今は、長期休みには会えるし、手紙のやりとりもちゃんとできる。
それまで秘密だった曾祖母の存在を知ったことで、父と母は手紙に曾祖母の話を書いてくれる。
(厳しそうだけど…会ってみたい)
きっと、誰より草花のことを愛しているに違いない。
「――それでね。その月下美人を、今日は届けに行ったんだけど」
「バーチィが…えっと、屋敷しもべ妖精の名前だけど、そのバーチィがちょっとミスをしてね」
「ミス?」
「そうなの。式場で月下美人を開花させるように、アレで調整してもらってたんだけど」
母がアレ、と言いながら人差し指をくるくるっと回す。
マグルの世界では"魔法"という言葉はご法度だ。
「トラックがあれば便利なんだが…まぁ、なくてね」
わかるだろ?と眉を上下させる父にキラはくすりと笑う。
「馬車の荷台に乗せたのはいいんだけど、あんまり揺れるもんだから、バーチィが頭をぶつけちゃって。アレがちょっと狂ったんだ」
「10株近く乗せてたんだけど…荷台の中で全部開花しちゃって」
「えっ?!」
上品な香りとはいえ、月下美人は大輪の花。
一株にいくつか花をつけるし、そもそもコウモリを呼ぶためにかなり遠くまで芳香を放つ。
ぽんっと音を立てて勢いよく花が開くのもそのためだ。
そんな匂いの強い月下美人が、狭い荷台で全部開花したら。
「いやー、鼻がもげるかと思ったよ!」
「うわぁ…」
いくらいい香りだからといっても、それは香水を体に塗りたくるようなもので。
荷台に乗っていた父はあまりの匂いに咳き込んだという。
「それで…そのまま式場に?」
「いや、バーチィにアレでちょちょいと、ね」
父は人差し指をくるくる、ぴっぴっと振る仕草をしたが、キラは見当がつかなくて首を傾げる。
「開花する前に戻してもらったのよ」
「…え、そんなことできるの?」
「んん…まぁ厳密には違うけど、そんな感じ。おばあ様もたまにやってるみたいなんだけど…よくわからないわ」
あっちの世界って便利なようでそうでもないし…と言いながら母はワインをコクリと飲み干した。
「それで? 学校の話、聞かせてよ」