第17章 エメラルドの輝き
「ねぇキラ。月下美人、育ててたの覚えてる?」
母に言われて、キラは祖母が特に念入りに手入れをしている様子を思い出す。
祖母に聞いた話だと、日本に嫁いできてすぐに取り掛かったのが月下美人の栽培らしい。
しかし、日本にある月下美人は、どの株も全て同じものだったため、祖母はわざわざメキシコへ赴き新たに月下美人を仕入れてきたのだ、と耳にたこができるほど聞かされた。
というのも、月下美人はメキシコに自生する森林性サボテンで、日本に持ち帰られた月下美人はたった一株。
その一株を株分けしたり挿し木したりして増えた、いわばクローンだけが出回っている状態なのである。
クローンであるため、花が咲いても受粉しないので実が出来ず、種もできないのだ。
「うん。水遣りの加減もだけど、日の当て具合も難しいんだっけ」
「そうそう。そうなんだけど。おばあ様のところでは50株ほどあってね」
「50?!」
「本当、圧巻だよ。お父さんより丈のある株ばっかりだから」
父はうんうんと頷いているが、キラは驚きのあまり口を閉じることができない。
月下美人は1m以上成長しなければ花をつけないのだが、人間よりも高い株が50となれば、どれだけの規模になるだろうか。
「日本では人口受粉だけど、こっちではメキシコと同じようにコウモリに受粉をしてもらってるんだ」
「コウモリに?」
「そうよ。満月の夜、ぽんって音がして濃密な甘い香りが漂う中――」
「コウモリが花の蜜を求めてあっちこっちを行き来する」
「その幻想的なことと言ったら!」
父と母は二人でうっとりと目を細める。
「――早くキラに見せてあげたいわ」
「そうだな」
「おばあ様もそんなに警戒しなくたっていいのにね」
キラだってもう14歳なのに、と頬を膨らませる母にキラは目を泳がせる。
「う、うん…。まぁでも、ひいおばあ様の気持ちもわかるから…大丈夫、待てるよ」
つい一ヶ月前に芝生を枯らしてしまったなんて、言えるはずもない。
キラは冷や汗をかきながら引きつった笑みを返す。
「そうかい? すまないね」
「お父さん、気にしないで。私、今はもうちゃんとわかってるし」