第17章 エメラルドの輝き
俺はね、あんまり他人の内面的なとこに触れないようにしてるの。
自分が触れられたくないから。
そう言ったダモクレスに、キラはそうですか、とただこくりと頷いた。
寮まで戻ってきた二人は談話室で別れ、それぞれの部屋へ戻った。
夕食までほんの少し時間があるので、キラはベッドにごろりと寝転がった。
天蓋の落ち着いた深緑色が、今は圧迫感を感じさせた。
リリーの瞳はどこまでも真っ直ぐで。
ほんの少しの悪をも許さないという、揺ぎ無い光が点っていたように思う。
ついこの間見た、似たような緑の瞳とはまた全然違う。
タンスの底から落ちたと言っていた彼女の瞳はどこまでも透き通ったような、透明感のある輝きを放っていた。
そう、あれはまるで彼女が大切にしていた青い宝石のような、美しい輝き。
「……」
キラはベッドから体を起こし、キャビネットを開ける。
衣服を掻き分けてみるも、底はただの木の板だった。
(セブルス…)
信じられないようなキラの話を、彼はハナから馬鹿にしたりしなかった。
『そんな馬鹿な話があるか』
そう言われても仕方が無い出来事だったのだ。
美しい青い宝石が降ってきたと思えば、その持ち主の女性も降ってきて、一瞬の内に消えてしまった、だなんて。
彼はただ一言、『ここは魔法界だ』と言ってくれた。
ここは不思議なことで溢れている世界なのだと。
「あんなの、嘘に決まってる」
セブルスがマグルを殺すなんて。
信じられない。
信じたくない。
「セブルスは優しいもの」
たとえ、彼が考え出す呪文が攻撃的なものばかりだったとしても。
たまに見る彼の横顔に、ひどく遠いところにいるような錯覚を覚えたとしても。
12月も半ばになり、生徒たちが近づくクリスマスに浮き足出つ頃。
キラは温室で水遣りをしていた。
「アグアメンティ」
杖の先端からじょうろのように水が出る。
「上達したな」
「はい。特訓しましたからね!」
えっへん、と胸を張ればセブルスが一瞬目を細めてキラを見るが、すぐに手元の書物に視線を戻した。