• テキストサイズ

【HP】月下美人

第17章 エメラルドの輝き


 魔法それ自体は悪でも善でもない。
 ただそれをどのように使うか。
 それだけの違い。
 
 何が悪で、何が善かなんて、はっきりわからない。
 死喰い人はすべからく悪だ、なんて。
 そんなこと。

「スネイプが…アイツが君を傷つけなくても、君は別の誰かに殺されるかもしれない。そしてアイツも、他の誰かの命を奪うかもしれない」
 ジェームズがまた、キラに牙をむく。

「……セブルスは…そんなこと…」
 口の中が乾燥して喉が痛い。
 掠れた声でひり出す否定の言葉。
 けれどそれは、ジェームズの有無を言わさぬ力強い口調にかき消される。

「アイツはそういう奴だ。スリザリンは目的のためには手段は選ばない。たとえそれが、どんなことであっても」

 聞きたくない。

「例のあの人に命令されたら、従わざるを得ないはずだ」

 聞きたくない。

「彼の後を追いかけないで」

 聞きたくない。

 嫌だ。

 聞きたくない。

「闇の魔術に染まらないで」

 嫌だ。

「っ…やめて…っ」
 キラは思わず耳を両手で塞いだ。
 足元の芝生が水分を失い、キラの周囲が急速に茶色になっていく。
「な、なに…?!」
 突然広がっていく枯れ草色にリリーは後ずさって足元を確認する。
「お、おい! 止めろ!!」
 この異変が目の前の少女がもたらすものだと気付いて、ジェームズは慌てて叫ぶ。
 STOP!!と焦るジェームズの声に被さったのは。

「――はーい、そこまでー」

 場違いかと思われるような、呑気な口調。
 ぐいっと腕を引かれて、キラは誰かの背後に引っ張り込まれた。
「わっ」
「うちの寮の後輩をいじめないでくれるー?」
 間延びしたその声は。
「ダモクレス…?」
 キラは驚いて、ジェームズを感情の読めない瞳で見つめるダモクレスを見上げた。
「苛めてなんか…本当のことを言ったまでだ」
「ふーん? でも、こんなことになっちゃったらねー」
 足元を指すダモクレスに、ジェームズはばつの悪そうな顔をして嘆息する。
 ようやく止まったその現象に、キラはそこで初めて気付いた。
「な、なにこれ…」
「なにこれって。キラがやっちゃったんだよー」
「わ、私がですか?!」
「うん」
/ 347ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp