第17章 エメラルドの輝き
リリーは、太陽のように暖かい。
とても真っ直ぐに、相対する人を照らすようだ。
(なら、セブルスは…三日月みたい、かな)
満月とは言い難い。
尖った月。
「ねぇ、もう一度やってみて?」
リリーはそう言って、投げ出されていた杖を拾ってキラに手渡した。
「……」
渡された杖を眺める。
「水を出す前に、シャワーだとかミストだとか、水の出口がどんな状態であるべきなのかを考えろ…って、彼が言ってたわ」
懐かしむような色が、リリーの声に滲んだ。
「か、れ…?」
ドクン、と心臓の音が跳ねたような気がした。
「セブルス・スネイプ…彼は、小さい頃のお友達、だったの」
(だった…?)
"He was a childhood friend."
英語には、日本語の幼馴染みに相当する単語がない。
子供の頃のお友達、という言葉になるのだが。
過去形の言い方に違和感を覚える。
それは、今はもうまるで関係ないのだ、と言っているということだ。
去年のクリスマスパーティーでのリリーとセブルスの様子が思い出された。
自分と同じ色の瞳がリリーをじっと覗き込んでくる。
まだ何もよく知らない、無垢な瞳だとリリーは思った。
キラはセブルスのことをちゃんと知らない。
ただ昔の自分のように、何も知らなかった私に魔法の世界を教えてくれる彼を追いかけているだけなのだ、と。
「今、あなたの目には彼が大きく見えていると思うの。でも…もっと周りに目を向けてみて」
セブルスは道を誤っている。
闇の魔術に魅せられてしまった。
マグルを徹底的に排除する闇の陣営、死喰い人を目指すセブルス。
そんな彼を追いかけていてはいけない。
キラはよくいるスリザリンの生徒とは違う。
家柄にも、マグルと魔法族の違いにも縛られていない少女だ。
そちらの色に染まってはいけない。
「あなたは、そちらに行ってしまってはダメ。今ならまだ間に合うわ」
「…何の、ことですか」
キラの硬い声に、リリーは眉尻を下げる。
ダメよ、そちらに染まってはダメ。
一度染まってしまったら、堕ちていくしかないの。
戻ってこれることなんてほとんどないのよ。