第16章 追いかけたい
セブルスとダモクレスの目線がしょうゆ煎餅に集まる。
「…あの、何か?」
「何だその黒いものは」
「持つところじゃない?」
「だがほかのものにはついてない」
「あ、本当だ」
二人の会話に、キラは手元の海苔を見た。
海苔…こっちになかったっけ?
そう思いながら、キラは海苔ごと煎餅にパクリと齧りつく。
と、二人の目が丸くなる。
(あ、海苔が上に張り付いて…)
口をもごもごさせたあと、ごくりと飲み込む。
「これは、ノリといって…乾燥させた海草です」
「へぇ…」
二人して煎餅の器を覗き込む様はなんとも滑稽で。
キラは笑い出したいのを堪えながら、ザラメのついた煎餅をじっと見ているセブルスに声をかけた。
「これは甘くて美味しいですよ」
「これは…コーヒーシュガーか?」
「あー…まぁ似たようなものかと。日本ではZARAMEと言うんですが、こちらで何というかは分かりません…」
「ザラメ…確かに甘そうだ」
「でも、煎餅自体は塩気があるし、グリーンティにも合いますよ」
「……」
セブルスは少し迷ってから、ザラメの煎餅を手に取る。
パキ、と二つに割って恐る恐るといった様子で口に運んだ。
「……美味い」
「でしょう!」
自分が褒められたかのように嬉しい。
キラは満面の笑顔で胸を張った。
「ねぇこっちはー? なんか色薄いね」
ダモクレスが指差したのは、もっともシンプルなもの。
「これは塩煎餅です。ほかのものはしょうゆ…ソイソースにつけてあります」
「へぇ~。じゃあこっちの塩のやつもらうー」
「はいどうぞ。これもお茶に合いますよ」
「ん、美味しー。いいね、これ」
「また日本から送ってもらいますね!」
そうして三人は再び脱狼薬について話し合った。
といっても、キラは主に聞き役だ。
ダモクレスとセブルスがああでもないこうでもない、と論議を交わす。
そんな二人の横顔はとても真剣で。
羊皮紙に書き付けられるメモがどんどん増えていった。
(ダモクレスって本当に魔法薬学好きなんだなぁ…)
四角い眼鏡の奥の目はいつもぽやんとしているが、このときばかりはキリリとして気忙しそうに動いていた。