第16章 追いかけたい
「キラ、お前…たまに酷いときがあるな」
「そうですか? まぁでも、妨害の呪文、なんとなくわかりました」
なるほど、と頷くキラをセブルスは何ともいえない気持ちで見下ろした。
その後、キラはソファに座り直したセブルスの隣に腰掛けた。
三人でサンドイッチを食べながら、人狼のことや脱狼薬について詳しく教えてもらう。
人狼になってしまった者は、その事実をひた隠しにして生きている。
そうしなければ、社会からつまはじきにされ、挙句の果てには命を狙われてしまう。
そんな彼らのための薬を作っていることがバレたら、ダモクレスの近辺に人狼がいるのではないか、という邪推が生まれてしまう。
そこにもし、たまたま人狼がいたとして見つかってしまったら?
彼らの人生は狂ってしまう。
だからこの研究については秘密にしなくてはならない――ダモクレスはそう言った。
キラはそれに力強く頷いて、自分にできることがあるなら、と強く手を握り締めた。
そんな彼女の様子にセブルスは感心せざるを得なかった。
(ダモクレスのやつ、思ってもないことを口からべらべらと…)
人狼になってしまった者にとって脱狼薬は喉から手が出るほど欲しいものだ。
もしこれが新薬として認められることとなれば、どれだけの金が動くのか。
貴族の中にも人狼となり隔離されている人間は少なからずいるはずだ。
脱狼薬開発を他の誰かに先を越されるわけにはいかない理由は金の問題だけではない。
それは治験にどれだけの人狼が参加し、どれだけの人狼が生き残るのか、ということ。
実験体が減るのは勘弁、というわけだった。
「私、トリカブトの栽培やってみます」
「うん、頼むよ。ところで…」
「はい?」
「それ、なーに?」
ダモクレスが指差したのは、若干緑色の残る茶色の敷物。
草を編んだもののように見えるそれは、ござ。
クルクルと簀巻き状にして立てていたものだ。
「これは…うーん、日本でよく使う敷物です。GOZA、と言います」
昼寝がしたくなったら使おう、と思って持ってきたものだった。