第16章 追いかけたい
「汚れを取る呪文も別にある。たとえば汚れた靴を綺麗にしたい場合は、テルジオという呪文を使う。乾かすだけなら旱魃の呪文もあるが、これを使うとお前が干からびる」
「干からびる?!」
「池や水溜りを干上がらせる呪文だからな。洗濯物になら使えるが…人間には使わない方がいいだろう」
「……魔法って難しいですね…」
水量や水圧を自分の匙加減で制御できるなら、旱魃の呪文だって程度を変えることができそうなものなのにできないとは一体どういう理屈なのだろうか。
(…魔法って時点でもう理屈じゃないんだよね…)
魔法界は奥が深すぎる。
「拡大呪文と縮小呪文はマスターしたんだ。次の段階としてアグアメンティを覚えるのは妥当なところだろう。スコージファイは…その内使えるようになる」
「そう、ですかね」
「アグアメンティをマスターすれば、の話だが。反対に火を出す呪文もある。インセンディオ、だ」
そう言ってセブルスが杖を掲げれば、空中に炎がぼぼっと音を伴い出現した。
「わわわ!」
火事になる!と焦るキラに再びニヤリと口端を引き上げながら、セブルスは炎を消した。
(わ、私、遊ばれてる?!)
唇を尖らせてセブルスを見上げても、彼は何も無かったかのような顔をする。
「人の動きを妨害するだけなら、インペディメンタという呪文がある。術者によっては相手を吹き飛ばすことも可能だ」
「吹き飛んじゃうんですか?」
「上手くいけば…と、その気があれば、だな」
セブルスはごく自然な動きで後ろを振り返り、杖を構えた。
「インペディメンタ」
(あ…ダモクレス…)
こちらに向かってきていた彼の動きが一瞬ピタリと止まり、また動き出す。
「ちょっとセブルスー! 何してくれてんのさー」
「百聞は一見にしかず、だ」
「何それ意味わかんないんですけどー」
ぶーぶー頬を膨らませるダモクレスを見ながら、キラはセブルスに問いかけた。
「吹き飛ばさないんですか?」
「…さすがに怒るだろう」
「……そうですね」
確かにそうだ。
いきなり理由もなく吹き飛ばされてはたまったものじゃないだろう。