第16章 追いかけたい
「っげほごぼぼぼっ…」
口の中に大量の水が入り、キラは体を二つに折って咳き込んだ。
「ごほっ…な、なにするんですかっ…けほっ…」
顔面は当然ながら、髪の毛も服もびしゃびしゃである。
「的に当てるのも難しいが、まずは水量、水圧の制御ができなければこうなる」
セブルスは至極真面目な顔でキラにそう言った。
「す、水量、水圧の制御……」
キラは髪の毛から水を滴らせながら呆然と繰り返す。
しかし、すぐに我に返った。
「って! セブルス、制御できるのにわざわざ私に水かけることないじゃないですか!!」
「…そうだな」
「そ、そうだなって……!」
くくっ、と笑うセブルスを見て、キラはそれ以上何も言うことができなくなった。
可笑しそうに口角を上げる彼を見たのは初めてだ。
ニヤリ、と笑うのを見たことがあったけれど。
面白そうに声を漏らすセブルスなんて、想像もしていなかった。
キラは呆然と水溜りの中に突っ立っていた。
「まぁ、当分の間は外で水遣りの練習でもするんだな。いきなりここでやって、植物を全滅させるわけにいかないからな」
「……はい」
納得いかない。
言っていることはわかるが、自分がこんなにびちょびちょになる必要があったのか?とじと目のキラ。
セブルスはもういつもの顔に戻っていた。
「スコージファイ」
再びセブルスの杖が振られて、キラの服や髪が瞬く間に乾いた。
「わ! 何ですかその呪文?!」
「Scourgify、だ。清めの呪文…とでもいうやつだ」
「清めの呪文…」
「シャワーを浴びずに体を清めたいときに有効だ。汗をかいた後に使えば一々シャワーを浴びなくて済む」
「え…」
キラは驚愕した。
いや、目からうろこと言った方がいいのかもしれない。
道理でホグワーツのシャワールームが混まないわけだ。
もちろん、キラのように小まめにシャワーを浴びる生徒がもとより少ないということはある。
しかし、きっと上級生は皆この呪文でシャワールームに訪れる回数を減らしているのだ。
とはいえ、魔法で綺麗にしたところでシャワーは浴びたい。
でないと綺麗になった気がしない、とキラは思った。