第16章 追いかけたい
「何か的を作ってそこに当てる練習をしろ」
「的、ですか」
「嫌いな奴の写真でも的にすればいい」
「え…」
(さすがにそれは…こっちの写真、人動くし…)
もし当たっても写真なのだから大丈夫なんだと思うが、写真を逆さにすると中の人物が大わらわになるのを一度見たので、写真目掛けて呪文を放つのは遠慮したい。
どう考えても後味が悪い。
「なんだ」
「い、いえ…何か的を、ですよね」
「そうだ」
「…ちょっと考えてみます…」
的はへのへのもへじ、と書いた紙でもいいだろうか。
(へのへの、の部分はせめてシリウスと書こうかな)
そんなことを考えているキラをよそに、セブルスは手で顎をさすりながら何やら考えている。
「そうだな…呪文はアグアメンティがいい」
「あぐ…?」
「Aguamenti、だ。水を杖の先から放出する呪文だ。これなら水浸しになるだけで、失敗しても害はない」
「水を出す呪文ですか」
「ああ。…見ていろ」
セブルスはソファから立ち上がり、百合の花壇目掛けて杖を振った。
「アグアメンティ」
杖先から水がシャワーのように噴出する。
まるでホースから水が出ているみたいだ。
「わぁ! すごい!」
キラが歓声をあげる。
セブルスは再び杖を振る。
と、シャワーのように出ていた水が今度はミストのようになる。
「おぉ…凄い! セブルス凄いですね!!」
パチパチと手を叩いてキラはセブルスの真横に立った。
彼の杖の前に手を出してみれば、確かにそれは水が出ていて、彼女の手を濡らした。
「うわぁ…便利ですねぇ」
感嘆の吐息を漏らすキラに、セブルスの悪戯心が動いた。
「この呪文を習得するには少し時間がかかる」
「そうなんですか?」
「ああ。なぜなら」
と、セブルスはそこで言葉を切って、杖先から水を出すのを止めた。
「なぜなら?」
その先を催促するように、キラが背の高いセブルスを見上げる。
「こうなるからだ」
「え?」
目の前に杖先が来たと思ったその瞬間。
「アグアメンティ」
ぶっしゃああああ!!!と勢いよく水が迸った。
キラの顔面目掛けて。
「ふわっ…ひゃあああああ!!」