第16章 追いかけたい
日曜日。
キラはいつものように部屋の前に準備されていたバスケットを手に温室へと向かった。
肩からかけているのは。祖母から借りている空間拡張魔法がかかったポシェットだ。
今、この中に入っているのは日本から送って貰った緑茶の茶葉とお茶請けであるお煎餅、ござの敷物と座布団、植物の栄養剤、それからトリカブトの種。
種は鉢植えされたトリカブトと一緒に届いたものだ。
すぐに発芽するわけではないが、ダモクレスが薬の開発に使用するのであれば届いた分だけでは到底足りないだろう。
それならば育てた方が良い…そう思って送ってもらったのだった。
キラが一番乗りかと思われたが、温室にはすでにセブルスがいた。
ダモクレスはまだのようだ。
今しかチャンスはない。
一度きっちり謝らなければ、喉につっかえたような中途半端なモヤモヤは晴れない…キラはそう思っていた。
「おはようございます。…早いですね」
「――ああ…早くに目が覚めたからな」
そう言ったセブルスの目元にはうっすらと隈がある。
相当早くからここにいるのだろう。
セブルスの目の前には数冊の書物が積まれていた。
一度解消したはずの寝不足だったが、また再発しているのだろうか。
(もしかして、私のせい…?)
セブルスはキラの視線を受け止める。
言うなら今だ。
キラは拳を握り締めた。
「あの、セブルス、私…あの…ごめんなさい!!」
何が、とは言わない、いや言えなかった。
キラは直角に腰を折って頭を下げた。
「――……人に魔法をかけるのなら、絶対に外すな」
ほんの少しの間があって、セブルスは落ち着いた声でそう言った。
頭を上げると、酷く渋い顔をしたセブルスがキラを見ていた。
「100%外さないという自信がないのなら、人に向けるべきではない」
「ご、ごめんなさい…」
「大体、あんな奴の邪魔をするのになぜ呪文が開花呪文なんだ。大方お前が一番得意な魔法なんだろうが、あのような使い方をするものでもない」
「う…すみません…」
「まったく…」
しょんぼりと肩を落とすキラ。
セブルスは大きなため息をついた。