第3章 出会い
「百合…かな?」
もう花は咲いていないから何ともいえない。
でもどうしてこんなところに植えてあるのだろう。
温室には向かない花なのに。
(葉が落ちてる…)
半分ほどの株が、よくある百合の病気にかかっているのに気づく。
この病気は伝染するので、まだ侵されていない株以外は全て抜いてしまわなくてはならない。
育てている人は、気づいていないのだろうか。
キラは百合に手を伸ばす。
(…人の花壇だけど。このままじゃ…)
百合を引き抜く前に土に触ってみる。
しっとりしている。それを確認したキラは、迷わず百合を抜いた。
そのときだった。
「おい! お前何をしている!!」
鋭い声が飛び、誰かが走ってくる。
キラはその大声にびっくりして体を強張らせた。
引き抜いた百合は握り締めたままだ。
「それをっ、返せ!!」
息を切らせ、怒った表情でキラをにらみ付けてくるのは、上級生と思われる黒ずくめの男子生徒だった。
キラは握り締めていた百合をその男子生徒に渡そうかどうか悩んだ。
この百合を育てていたのは間違いなく彼だろう。
大切に思っているのがよくわかるほど、彼は憤怒している。
「…この百合は、もうダメです」
キラはそう言って、百合を彼に渡す。
「何だと…?」
百合をひったくるように受け取った彼が怪訝な目でキラを見る。
「葉の落ちたものは全部抜かないと、全滅しちゃいますよ。それから…水、やりすぎです」
このままでは残った百合もダメになるのはそう遠くないだろう。
「……」
眉をギュッと寄せ険しい顔で花壇を見つめる彼の様子に、キラはいたたまれなくなってうつむいた。
彼としては、大切に育てていたつもりだったろう。
育て方を間違えて枯らしてしまうことはよくあることだ。
それでも悲しいことには違いない。
「…全部抜くだけでいいのか?」
「え…」
彼がこちらを見ていた。
「抜くだけでいいのか?」
再度言われて、キラは曖昧にうなづいた。
「ダメなのか?はっきりしろ」
思いのほか背の高い彼に詰め寄られて、キラは萎縮してしまう。