第3章 出会い
地下の石畳みの上、できるだけ音を立てぬようにそろりそろりと歩を進め、キラはホグワーツ城を出る。
温室は少し盛り上がった丘の上にある。
ローブのポケットに入れたいくつかの種をもう一度確かめてからキラは歩き出した。
授業は一~三号温室で行われているが、それとは別に薬草などを栽培している温室が二つある。
その一つに出入りする許可をキラは薬草学の授業後にポモーナ・スプラウト教授に取っていた。
朝の静けさに、なんとなくキラは息を潜めながら温室へ入った。
むわ、とした湿気が頬にまとわりつく。
スプラウト教授が好きに使って良いと言ってくれた花壇を探して奥へ進んでいく。
『特別何もしてない赤いレンガ造りの花壇があるから、そこを貸してあげるわ』
そう言っていたのだが。
その花壇は雑草が生え放題の荒れ放題だった。
(特別何もしてないって、そういうこと…)
ちょっと土を掘り返して、さっと種を蒔いて戻ろうと思っていたのに。
キラは花壇の雑草を試しに一本引き抜いてみる。
ぶちり、と途中で千切れてしまった。
(土が硬いし、根が深いなぁ)
どうやら気合いを入れて花壇を手入れしなければならないようだ。
ローブを脱いで、髪の毛をお団子に結い上げる。
持って来たゴム手袋をはめ、キラは置きっぱなしになっているジョウロを手にした。
温室の外に雨水を溜める大瓶があったように思う。
水を汲み、まずは土を柔らかくして、それから背の高い草をあらかた抜いてしまおう。
そしてしばらくして。
花壇はすっかり土が見えるようになり、引いた草がこんもりと小さな山になった。
キラはゴム手袋を外して、額ににじんだ汗を拭う。
(もう朝ごはんの時間過ぎちゃってる…よね)
温室には時計がない。
しかし、これだけの草を抜いていたのだ、二時間以上経っているに違いない。
喉も渇いてきていることに気づき、一旦城へ戻ることにした。
そこでふと見えるものに目が留まる。
くすんだ白の石造りの花壇にも何か植えてある。
何だろうか。
キラは近づいて確かめてみた。