第16章 追いかけたい
バタバタと走る足音が複数聞こえる。
自分には関係ないと、セブルスは見向きもしなかった。
しかし一つの足音は間近で止まり、小さな声が彼の名前を呼んだ。
「セブルス…」
スリザリンカラーのネクタイが視界に入る。
「あの、これ…ありがとうございました」
そう言ってキラは手に持っている皮製の道具入れを胸の前に掲げて見せた。
「――あぁ…」
たった一言なのに。
反応が返ってきたことが嬉しくて、キラはほっとした。
「それで、あの「あっ!それ、気に入ってくれたー?」さい…」
ごめんなさい、の言葉は綺麗にかき消された。
キラは一瞬呆気に取られたが、ダモクレスを見上げた。
「あ、は、はい、ダモクレスも、ありがとうございます。とっても嬉しいです」
「良かったねぇセブルス! これにしよう、って決めたのセブルスなんだよー」
「そうなんですか?」
セブルスの方へ視線を移すと、彼は余計なことを、とばかりにダモクレスを睨んだ。
それをあえて無視して、ダモクレスは続けて言う。
「それで、えーっと? 12歳?あ、13歳になるんだっけ?」
「あ、いえ、私、昨日で14歳になりました」
「…ん?」
「え?」
二人が同時に首を傾げる。
「私、入学が一年遅れてるんです。日本の学校に通っていたので、そちらを卒業してからこっちに来たんです」
「ああ、なるほどねー」
「14か…」
なるほど、たった一年といえど、大きな差である。
少し大人びているような気がすると思っていたのは、間違いではなかったのだ。
1月に誕生日がやってくるセブルスとは、今この時点で三つしか変わらないということになる。
「あの、ダモクレス。放課後時間ありますか?」
「あるよー。どしたの?」
「トリカブト、届いたんです」
「本当?」
「はい。今日の授業が終わったらスラグホーン教授のところへ受け取りに行くんです」
「じゃあ俺も一緒に行くよー。セブルスは談話室で待ってる?」
「なぜ俺が待ってないといけないんだ」
「え、だって気にならなーい? 新薬開発のための材料だよー?」
"新薬開発"という言葉にセブルスは心惹かれる。
トリカブトは毒を持つ植物だ。
一体何の薬を開発するというのだろうか。