第15章 ナイトメア・ビフォア・クリスマス
昨夜オレンジ色に染まった大広間は、朝にはすっかり元通りになっていた。
魔法がなかったらもうしばらく掃除に時間がかかったに違いない。
「さすがに昨日はかぼちゃを食べ過ぎたわね」
目の前にあるかぼちゃのポタージュスープに手を出す気にはなれない三人は、塩気を求めてバゲットとバターを口に運んでいた。
「あ…翡翠じゃないかな…」
アニーの声にキラは頭上を見上げる。
梟便の時間だ。
「本当だ」
基本的には主人のいる梟を他の人間が借りることはない。
一体誰が翡翠に荷物を?と思っていると、目の前に降りてくる。
キラの差し出した餌を啄ばみながら、ホゥホゥと啼いた。
「ありがとう、翡翠」
届け先は自分だったのか、それなら翡翠を使うのもわからなくはない。
しかし一体誰だろうか。
届いた茶色の包みを開けてみると、焦げ茶色の皮製の何かが出てきた。
「何だろう?」
「ペン入れかしらね?」
クルクルと丸められているので、キラは紐解いて広げてみた。
「あ…」
黒のステッチで幾つも仕切りがされている。
七つほどあるポケットの内二つには、銀製と真鍮製の匙。
ピンセットが一つ。
そして小型のナイフが一つ。
「これは…」
もしかして。
まさか、という気持ちと期待とが入り混じりキラは自分の心臓がドキドキと早くなるのを感じた。
この小型のナイフは、見覚えがある。
これは新品だけれども。
ナイフの柄に彫られた小さなトカゲの紋様。
「キラ。カードが入ってたわ」
「ありがとう」
はやる気持ちを抑えて、カードを受け取った。
体中が沸騰しそうな気分だ。
黒いカードに、どうしても笑みが零れる。
『HAPPY BIRTHDAY TO YOU』
見慣れた字。それは、去年のカードとそっくりで。
その下には、もう一人からのメッセージ。
「『今日から君も魔法薬学のプロだ!』だって…ふふ」
キラの元に届いたのは、彼らが愛用している魔法薬調合時の小道具の一部。
匙とピンセットと小型のナイフは最も重要な基本アイテムである。