第15章 ナイトメア・ビフォア・クリスマス
そんなことがあったため、キラはセブルスに謝るどころかその後近づくこともできなくなった。
あんなにもセブルスの声は冷たかっただろうか。
一年前、彼に初めて会ったときももちろん怖かったが、あれは驚いた、と言う方が近い。
とにかく彼が怖くて仕方ない。
一度は夕方の図書室に向かったが、いつもの席に座るセブルスを見つけても彼の前に行くことができなかった。
いつもと違わない、眉間に皺を寄せて前屈姿勢で本に顔を極限まで近づけたその様子。
普段ならその前に座り、授業の予習や復習をしている自分がいるはずなのに。
(どうしよう……)
温室に行くこともできなくて、悶々とした週末を過ごした。
「はあぁぁぁぁ……」
キラはテーブルに額をくっつけていた。
「大きいため息ね」
「気持ちはわかるわ…」
「たったあれしきのことで、器の小さい男だわ」
「キャリー、そんなこと言ったら…」
「あら、ごめんなさい。でも本当のことよ」
「キャリーったら…」
「大体、今日はキラの誕生日なのよ!! どうしてあんな男一人のためにキラがここまで落ち込まなくちゃいけないのかしら!」
苛々した様子を隠しもせず、キャリーは程よい温度になった紅茶を一気に飲み干す。
「うん…ごめんね」
テーブルに突っ伏したままのキラがくぐもった声でそう言うので、キャリーはますます眉を吊り上げた。
「だから! あなたが謝ることじゃないのよ!!」
セブルスお花まみれ事件から約二週間が経っていた。
気づけば今日は10月31日、キラの誕生日であり、ハロウィンの日であった。
キャリーとアニーからは朝一番に祝ってもらいにこにこしていたキラであったが、大広間に入って早々にセブルスの姿を見つけてしまい一瞬にして心が萎れてしまった。
日を追うごとにセブルスとの溝が深まるような気がしていても、近づく勇気が出ない。
セブルスとキラの異変に気づいたダモクレスがどうしたのかと尋ねてくれたものの、どうすることもできなかった。
ダモクレスとセブルスは親友というわけではないのだ。
ただ同じ寮で、同じ部屋で。
魔法薬学が好きで、お互いにあんまり干渉しないからこそ温室で同じ時間を過ごしている。