第15章 ナイトメア・ビフォア・クリスマス
翌朝、キラはいつもよりさらに早くベッドを抜け出して身支度を整え、談話室に向かった。
寮内から外へ出るには談話室を通らなくてはならない。
毎朝日課の温室通いを今日は諦めて、談話室の通路前を陣取る。
ソファに身を沈めながら、キラはセブルスに何と言って謝ろうかをずっと考えていた。
コツコツコツ、と石畳みを蹴る音。
いきなりセブルスが出てくることはないだろう、と思いながらも身構える。
「――キラ?」
聴き慣れた声に一瞬どきりとする。
しかしそれはセブルスではなく。
「ダモクレス…おはようございます」
「おはよー。相変わらず早いねー」
「えぇ、まぁ…ダモクレスは? 今日は早いですね」
「うん。実験の結果を見に行こうと思って」
「実験?」
「そうそう。カエルをおびき寄せる薬を作ったから、その効果のほどを確認しにいくんだー」
「カエル、ですか?」
「薬の材料になるんだよー」
ああ、そういうことか。
キラはなるほど、と頷いてから、ダモクレスをじっと見つめた。
「どうかした?」
「あ、いえ…セブルスは…?」
「セブルス? まだ部屋に居たと思うよー」
ホントにセブルスが好きだねー、とダモクレスが笑うのでキラは何ともいえない気分になった。
好きとかそういうわけではなく、謝りたいのだ。
「昨日からなんか機嫌悪いから、気をつけなよー」
「え…」
「それじゃー」
バイバイ、と手を振ってダモクレスが寮を出て行く。
それに手を振り返すキラの心は一気にどんよりとしてしまった。
(機嫌が、悪い…)
どう考えても自分のせいだ。
(うぅ…会うの怖い…)
逃げ腰になる自分を何とか奮い立たせ、キラはソファでセブルスを待ち続けた。
五人ほどの生徒が出て行った後だったろうか。
彼はやっとその姿をキラの前に現した。
「あっ…」
キラはさっと立ち上がり、セブルスの前に躍り出た。
「せ」
「邪魔だ。退け」
「っ……」
有無を言わさぬ圧力にキラはビクッと体を震わせて固まった。
セブルスは一度もキラを見ることなくその脇を通り過ぎて行く。
扉の向こうに消えた後ろ姿に、キラはただ立ち尽くすことしかできなかった。