第15章 ナイトメア・ビフォア・クリスマス
シリウス達の目の前に花を出せばセブルスに魔法が当たらないだろう、そう思って放った呪文だった。
花で飾られたセブルスにシリウスは笑い転げて呼吸困難寸前である。
それもそのはず、セブルスの呪文によってシリウスは舌を口蓋にくっつけられてしまい、大口を開けて笑うことができないのだ。
ジェームズはそんなシリウスさえも可笑しくて、ヒィヒィ涙を流して笑った。
ピーターも控えめではあったが、笑っているのには変わりなく。
セブルスはゆっくりと顔を上げて、杖を振る。
「エバネスコ」
制服の前面に咲いた花が瞬時に消える。
そうして、彼は笑い転げる四人組を睨みつけた。
しかしその後ろに杖を握ったまま立ち尽くすキラの姿を見つけて、セブルスは表情を失った。
「お前が…?」
「セブルス…違うんです、これは」
キラは誤解を解こうとセブルスに駆け寄ろうとしたが、突然間に入ってきた誰かに阻まれた。
「いやー! お見事! 素晴らしい魔法だね。まさかあのスネイプを花でデコレーションするだなんて、考え付きもしなかったよ!」
丸い眼鏡にくしゃくしゃ頭。
リリーの隣にいつもいる男子生徒だ。
「スリザリンのことは嫌いだが、僕は君が嫌いじゃないな」
そう言って、キラの手を握ってくる。
「やめて! 私、そんなつもりじゃ…セブルス、ちょっと待って下さい!」
いつもの不機嫌そうな表情ではなく、彼はまるで能面のような顔をしたまま、キラから離れていく。
キラは慌てて彼を追った。
「待って! 待って下さい! 私っ」
「煩い、黙れ。顔も見たくない」
「っ…」
セブルスの冷たい、何の色も持たない声音に足がすくんだ。
ピタリ、と歩が止まりキラはセブルスの背中が小さくなっていくのを見つめることしかできない。
(…どうしよう……)
怒らせたと思った。
怒鳴られるのが怖いと思った。
けれど今、嫌われてしまったことが何よりもショックだった。