第15章 ナイトメア・ビフォア・クリスマス
「これ持ってて!」
「えっ、ちょ、キラ?!」
キラは風呂敷巾着をキャリーに放り投げ、杖を取り出しながら走り出す。
頭の中で、先月見た記憶が蘇る。
それが誰だったのかはわからない。
けれど、シリウス達が誰かに向かって呪文を唱えた途端、その人の足がぐにゃぐにゃと曲がりだした。
その人は立っていられなくて、その場に倒れるかと思えばまた杖が光って、ふらふらと踊りだした。
確か、本人の意思とは裏腹に勝手に足が踊りだす、という呪文があると聞いたことがあるので、キラはきっとそれだろうと思った。
ぐにゃぐにゃの足で倒れそうになりながらクルクルと踊るその人を見てゲラゲラ笑っているシリウス達。
キラは嫌悪感を抱いてすぐにその場を立ち去ったのだ。
(あれがセブルスかどうかはわからないけど…)
悪戯四人組、と彼らが呼ばれていることを後に知ったとき、あんなの悪戯じゃない、とキラは思った。
関らないようにしよう、とグリフィンドールの赤い制服を見る度、彼らではないことを確認していたのだが、セブルスが標的と分かって黙って見ていることはできなかった。
キラが杖を真っ直ぐ前に向けて魔法を放ったそのとき、セブルスがクルリと振り返った。
「オーキデウス!!」
「ラングロック」
「むっ…っ…っ…」
「えっ……」
「あっ……」
キラは絶句した。
(ど、どうしよう…絶対怒られる…!!!)
時が止まったかのような、数秒の後。
「ぶ…っ、は、ハハハハ!!」
「ぷっ…くくくく…」
「あ……」
「っむっっ…っ!!!」
笑う者、何とも言えない表情をする者、呆然とする者。
そして、顔面蒼白になるキラ。
(なんでこんなことに…)
セブルスは呆然と自分の体を見下ろしていた。
彼の制服の前側は全面可愛らしい色とりどりのお花で埋め尽くされていたのだ。
赤、ピンク、黄色、オレンジ、白。
およそ彼には似つかわしくない、ファンシーな姿。