第14章 アプリコットの夢
「っ…」
「ここ、痛いですか?」
「…いや…」
キラの頼りない華奢な手が肩に触れる。
他人に触れられることを嫌っていたはずなのに、セブルスはそんなことも忘れてマッサージを受けていた。
首の付け根や肩甲骨辺りを圧迫されると気持ちいい。
先ほど飲んだアプリコットティーで心が落ち着いていたのもあるのだろう。
少しずつ、瞼が下がってくる。
脇に置いていた10分砂時計の砂がそろそろ落ち切ろうとしているのが見えて、ハッとしてボトルをひっくり返した。
しかし、また眠気がやってくる。
(…………)
セブルスはふと思った。
自分は眠いのを我慢する必要があるのだろうか、と。
「キラ」
「はい」
「少し寝る。これを」
「あ、はい…」
砂時計を手渡されたキラはこれで時間を計ってたのか!と納得して声を張り上げそうになったが、眠そうなセブルスを見てその言葉を飲み込んだ。
「私、あっちに座るので横になってください」
できるだけ小さな声でそう言って立ち上がれば、セブルスはああ、ともうん、ともつかない返事をしてソファに寝転んだきり動かなくなった。
「…セブルスも寝ちゃった…」
あっちに座る、と言ったもののそちらにはダモクレスが寝ているのをすっかり忘れていた。
キラはどこに腰を落ち着けようか考えた末、テーブルクロスを敷物代わりにすることにした。
セブルスの眠るソファの前に敷いて靴を脱いで上がれば、一瞬自分が日本に戻ってきたような感覚に陥った。
こちらに来ればシャワーとベッドに入るとき以外は靴を脱ぐことがないからだろう。
ソファの足元を背もたれにして、渡された砂時計とボトルを目の前に置いた。
揺籠の歌を カナリヤが歌うよ
ねんねこ ねんねこ ねんねこよ
幼い頃聴いた母親の歌う声が、不意に脳裏によみがえって来た。
『――ゆりかごのうたを かなりやがうたうよ ねんねこ ねんねこ ねんねこよ』
セブルスを起こさぬ様、母親がやさしく歌ってくれた様に口ずさむ。
『ゆりかごのうえに びわのみがゆれるよ ねんねこ ねんねこ ねんねこよ――』
(あれ? まだ続きがあった気がするんだけど…なんだったっけ?)