第14章 アプリコットの夢
「優秀な魔法使いは、それぞれ好き勝手に呪文を発明している。だから、同じ意味のものでも呪文は一つじゃない」
「はい」
「自分の中で、このスペルの並びが一番ふさわしいと思えばそれが新しい魔法になる」
セブルスは羊皮紙にキラの知っている呪文をいくつか書きつけ、それぞれどの部分がラテン語なのか、どういう成り立ちなのかを説明してくれた。
「はぁ、なるほど…。あのぅ…」
「なんだ」
「セブルスは、ラテン語が話せるんですか?」
「いや…読むだけだ。辞書は手放せない」
「そうなんですか? 読めるだけでも凄いです…!」
「ラテン語で書いてある書籍も多いからな。お前も勉強しておいた方がいいぞ」
「うっ…まだ英語で精一杯ですよ…もっと早く読めるようになったら挑戦してみます」
言いながら、キラはボトルをひっくり返す。
そういえば、この魔法薬は一体何の薬なのだろうか。
底に溜まっていた滞りが上になり、もわもわと下がっていくのをキラは見つめる。
薬の中には、こんなにも手間のかかるものがあるんだなぁとキラは初めて知った。
じーっと謎の魔法薬を眺めていると、隣でセブルスが首を前後左右に動かしたり、肩を上げ下げし始めた。
首を動かすとポキポキと音が鳴って、キラは驚いて声をあげる。
「凄い音…!」
「あぁ…最近肩と首が痛くて」
「肩凝り酷そうですもんね…」
ほんの少し考える素振りを見せて、キラはボトルをセブルスに差し出す。
「……?」
「向こうを向いて下さい。座ったままで大丈夫です」
セブルスは一体何なんだ、と思いながら言われるままキラに背を向けた。
「…ちょっと失礼します」
そう言ってキラはセブルスの肩に手を置いた。
「っ」
ビクリ、とセブルスの体が跳ねたので、キラは慌てて手を退けた。
「あっ、すみません! こしょばかったですか…?」
「いや…吃驚しただけだ」
いきなり肩に触れられるとは思っていなかったセブルスは、ふぅ、と息を吐き出した。
「肩の…マッサージです。おじいちゃんによく上手いって褒められるんですよ」
肩たたきは孫の勤めだ、なんて言ってたなぁ…と祖父を思い出しながら、キラはセブルスの肩を揉んだり叩いたりし始める。