第14章 アプリコットの夢
時計を気にしながら本を読めば、それはそれで全く集中できず、何度も同じページの同じ場所を読み返すことになった。
(10分ごとって辛い…!)
せめてストップウォッチがあれば…と思うが、魔法界には無い。
それに代わる何かがあるのかもしれないが、今は懐中時計で時間をこまめに確認するしかない。
キラは読書を諦めることにして、肘掛けに腕を置いたまま微動だにしないセブルスの様子をそっと伺う。
顔にかかる髪の毛のせいで視線がどこに向かっているのかわからない。
10分ごとの時間をどう計っているのか、彼はキラがボトルをひっくり返すのを忘れそうになると必ず声をかけてきた。
たまに思い出したかのように、羊皮紙に何か書き付けていた。
(何してるんだろう?)
キラはセブルスの隣に座ろうと立ち上がる。
その気配に気づいたのか、セブルスは自分の隣に置いていた本を脇に避けてくれた。
「何してるんですか?」
そっと隣に腰掛けて、キラは手元を覗き込む。
アルファベットの羅列が、ミミズののたくった様な字で書き連ねてある。
「…新しい魔法の呪文を考えている」
「呪文、ですか」
かみ締めるような口調で繰り返したキラに、セブルスは小さく鼻を鳴らして喋りだす。
「呪文はある一定の法則のもと作られている。…わかるか?」
問われて、キラは自分の知っている呪文を頭の中で並べてみるが、ピンとこない。
エンゴージォとレデュシオ、で考えれば最後は~ioで終わっているなぁ、くらいである。
「まず、ラテン語と英語の造語が多い。末尾が~us、~um、というものもよくある」
「……はい」
とりあえず頷いておけ、と思ったのがバレたのかわからないが、セブルスはチラリとキラを見た。
「呪文は基本的には英語ではない、ということだ。それから、ラテン語にしておけば何でも呪文になるわけでもない」
センスが必要だ、とセブルスは言う。
言葉の意味はもちろんだが、響きも重要視されるらしい。