第14章 アプリコットの夢
「あの…?」
「…そのスコーンは?」
「へ?」
「屋敷しもべ妖精は苦手だったんじゃないのか」
「あ…はい。だから…その、お手紙を書きました」
「手紙? …ダモクレス、そろそろ時間だぞ」
「…へーーい」
セブルスは本当にきっちりしている。
会話の途中でも声をかけることを忘れないのは凄いな、とキラは思った。
「土曜の朝、部屋を出る前に枕の上に手紙を置いておくんです。明日はサンドイッチをお願いします、スコーンがいいです、とか」
手紙が無くなっていれば、屋敷しもべ妖精が了承をしたサインだ。
日曜、部屋を出るときには扉の横にバスケットを置いてくれている。
セブルスはそうか、とだけ言って淹れた紅茶をキラとダモクレスの前に置いてくれた。
いつものアプリコットティー。
この前のダモクレスの紅茶とは香りが違う。
段違い、とは言わないが味も違う。
「やっぱりセブルスの紅茶は美味しいですね」
ふふふ、とにこにこしながらティーカップに口をつけるキラに、セブルスはチラリとダモクレスを見た。
薬が盛られていたことをキラは知らない。
ダモクレスは眠いことを盾にセブルスの視線を無視してキラに話しかける。
「ねーキラーお願いがあるんだけどーー」
「はい?」
「一時間だけでいいからーーーおねが…い…」
「え、ちょ、ちょっとまっ」
「ぐぅ…」
「ぐぅって今自分で言った…!」
託されたワインボトルと、金色の懐中時計にキラはため息をついた。
(三日も寝ちゃダメなんて無理だもんね…一時間と言わず二、三時間寝かせてあげてもいいかなぁ)
そう思ったのが間違いだった。
「――キラ、おい、キラ」
「っはい?」
「もうすぐ10分だぞ」
「あ、すみません…」
そんな会話をセブルスと三度繰り返して、キラはやっと大変さに気づいた。
本を読んでいれば、10分なんてあっという間に過ぎてしまうのだ。
セブルスが声をかけてくれなければ、薬の調合は失敗に終わるところである。