第14章 アプリコットの夢
セブルスにポプリと漢方薬を渡してから約一週間。
日曜日、いつものように温室にやってきた二人を見てキラは唖然とした。
セブルスがダモクレスを担ぐようにしてやってきたからだ。
「ど、どうしたんですか?!」
「…寝不足だ」
忌々しげにそう言って、セブルスはソファにダモクレスをぽいっと乱暴に下ろす。
「ダモクレスも…?」
セブルスの目元の隈は相変わらずだったが、ダモクレスまで隈を作っているとは何事か。
「んー、ちょっとー、時間かかる調合しててーーー」
「おい、寝るな」
「起きてるよーー」
うにゅうにゅ言いながらダモクレスは手に持っていたワインボトルのようなものを上下逆さまにする。
「それは…?」
「今作ってる薬なんだけどー、これー、10分ごとに上下逆さにしなくちゃいけなくてー…」
喋りながら、薄目を辛うじて開けているダモクレスの首がぐらんぐらん揺れる様子が怖くてキラは思わずセブルスに寄り添った。
「火にかけて煮詰めること4時間、その後72時間ずっとあれだ」
「えーっと…?」
つまりどういうことだろうか。
考えの及ばぬキラに、再びダモクレスが口を開く。
「三日間、寝ないでずーっとこれをひっくり返してるんだよーーー。俺ってばすごくなーーい?」
「まだ二日しか経ってないだろう」
「そうだけどーーー…」
寝不足に悩まされていたセブルスだったが、先週よりは随分マシになったのか、よく口が回る。
自分の渡したものがちょっとは効いたのだろうか。
キラはセブルスをじっと見つめた。
「……少しは、眠れている気がする」
その言葉にキラは肩を落とした。
(少しだけかぁ…)
「お役に立てなくてすみません」
「いや…」
しょげるキラにかける言葉がセブルスは中々見つけられない。
毎度悪夢に魘されて起きているのだ、とは言えない。
「――お茶でも飲むか?」
そうしてやっと出たセブルスの一言に、キラは心がパッと晴れやかになった。
「はい!」
いそいそとスコーンをテーブルに並べていたキラは、セブルスが何か言いたそうな様子でこちらを見ているのに気づいた。