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【HP】月下美人

第14章 アプリコットの夢


『全く…』
 手を伸ばしてキラのローブを取る。
 ふわりと花の香りがした。
 キラが自分で作っているというポプリの香り。
 悪くない、とセブルスは思っていた。
 そこまできつくない、清楚な香りだ。
 簡単に畳んで、本と一緒に小脇に抱えて図書室を出る。
 キラの「あっ!」と言う顔が目に浮かぶ。
 そうして石畳みを蹴る音は心なしか軽く聞こえた。






 大広間に向かうはずだったのに、気づけば真っ白な部屋にセブルスは居た。
(何だ…?)
 真っ黒なのは慣れている。
 けれど、真っ白な部屋というのは居心地が悪い。
 手に持っていたはずの本とキラのローブは消えていた。

 ふと視線を感じて振り返れば、そこには緑色の瞳の彼女。

 思わず体がビクりと跳ねた。
 射るような視線。


 あなたは、こちら側の人間ではない。
 暗い闇の人間とは住む世界が違う。


 まるで体を貫かれるような気になって、セブルスは緑色の瞳から目を逸らし、頭を守るように両腕で抱え込む。

(やめろ)

(見るな)

 それでもその目は見ることをやめない。
 じっと、セブルスを見つめてくる。
 ああ、頭が割れそうに痛い。
 やめてくれ。




(――見るな!!!!)









 カッと目を見開けば、深緑色がセブルスの視界を埋め尽くした。
 セブルスは咄嗟にシーツを手繰り寄せ、頭から被った。
 心臓がどっどっどっ…と走ってきたかのように激しく動いている。
 なんて嫌な夢だったのか。
 汗がべったりと体中に滲んで、張り付く寝間着が気持ち悪い。
 少し落ち着いてから、セブルスはバサッとシーツを剥いで体を起こした。
 眠ってからどれくらい経ったのだろうか。
 17歳の成人の祝いに、とルシウスからもらった銀色の懐中時計を開いてみれば、日付が変わってしばらくしたところであった。
 夕食後直ぐに横になったので、四時間ほどは眠れたらしい。
(昨日よりはだいぶマシだな…)

 杯の中のポプリを覗き込む。
 これのお陰か、薬のお陰か。
 嫌な夢だったので、もう一度眠るのは気が引けた。
 セブルスは昨日と同じように灯りをつけ、本を開く。
 そうして翌朝を迎えた。

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