第14章 アプリコットの夢
その夜、セブルスは夕食を取った後すぐに自室に戻った。
いつもなら就寝時間まで談話室の一角に腰を落ち着けているが、キラから貰った薬とポプリを試したいと早々に寝間着に着替えた。
漢方薬は本当に粉が細かくて、飲み込む際に喉に張り付くように広がってセブルスはその苦しさに目を白黒させた。
(飲み辛い…これはもっと改良の余地があるんじゃないか…?)
何とか飲み下して、一息つく。
それからローブの内ポケットに突っ込んだ巾着を取り出す。
キラが言っていた銀杯を棚から下ろして、巾着の中身を空けた。
ふわっと香りがベッドの上に広がる。
確かに、そこまで香りは強くない。
「……?」
くんくん、と香りを吸い込んで、頭を捻る。
なんだか違和感がある。
キラが普段使っているポプリだから、知っていて当然の香りなのに。
そう思いながら、セブルスはもう一度大きく深呼吸をして、銀杯を枕元に置いた。
それから体を横たえて、天蓋とカーテンに仕切られた小さな空間でゆっくりと目を閉じた。
(ああ、そうか)
何か足りない気がしたのは、図書室の埃っぽい匂いだ。
『もう夕食の時間だが』
『え、もうですか?!』
『…もう少し時間感覚を持てないのか』
いつもの席で読書をしていたセブルスは、その向かいの席で教科書や本を広げまくっていたキラに呆れながら言った。
『うう…』
キラは慌てて本を書架へ戻しに行く。
そして広げた羊皮紙を丸めて、筆記用具を仕舞う。
『それではお先に!』
キャリーたちが待っている、とキラは急いで図書室を出て行く。
バタバタとした様子を気配で感じながら、セブルスは目の前の文字を追う。
キリのいいところで本から顔を上げると、向かいの席の背もたれにローブがかかっているのが見えた。
『またか…』
キラはよくローブを忘れていく。