第14章 アプリコットの夢
ふわふわ、と足元が浮いたような感覚をまとわり付かせたままセブルスは朝食のため大広間へ向かった。
ダモクレスの向かいに座り、フォークでひよこ豆を一粒ずつ刺して口に運ぶ。
食欲もほとんどないので、咀嚼するのも億劫である。
「セブルス、大丈夫ですか…?」
ぼーっとフォークを握り締めたまま心ここにあらず、な彼の隣にやってきて、キラは腰を下ろした。
「これ、飲んでみてください」
渡されたのは、紙に包まれた粉。
「…?」
これはなんだ、とばかりに眉を顰めるとキラは慌ててこう言った。
「変な薬じゃないですよ! 寝不足に効く漢方薬です。祖母が持たせてくれたんですけど、鎮静作用があるんです。結局、私は特に寝不足になることもなくて持て余していたので…」
「それがKAMPO? 良いなーセブルス! 使わないんならちょうだい!」
いまや漢方について興味津々なダモクレスが身を乗り出してキラの手から漢方薬を取り上げる。
「あ…!」
「おい」
「粉薬なんだー? すっごいさらさらー」
「こ、零さないでくださいね」
「…く、くしゃみでそう」
「え!」
「待て」
「ふっ…ふ…」
キラは慌ててダモクレスから薬を奪い返し素早く包み紙を折り畳む。
「――あー、不発。スッキリしないー」
ダモクレスの言葉に二人は脱力した。
セブルスは小さく息を吐いて、キラの手のひらにある薬を受け取った。
「睡眠薬、というわけじゃないんだな」
「はい。…そういえば、睡眠薬って作れるんですよね?」
どうして使わないんですか?とキラが首を傾げる。
「常習になると困るからだ。材料も安くない」
「そうなんですか…」
「何かあったときに起きられないというデメリットもある」
「なるほど」
地震とかがあったら大変だもんね、とキラはふんふんと頷く。
とはいえ、ここら辺では地震はほとんど無いのでそういう心配は全く不要なのだが、キラは納得してそれ以上聞くことはなかった。
セブルスの何かあったときというのは、エイブリー達からの呼び出しのことであった。