第13章 二つ目の年
「ふぅん…薬になるトリカブトは種類が限られてるんだねー」
「はい。こちらで手に入らなさそうなので祖母に送ってもらうことにしました」
薬に使われるトリカブトは中国原産、もしくは日本原産の種だったためイギリスではほぼ手に入らないと両親が言っていた。
「持って来れなかったのー?」
「一応、毒ですからね…マグル式の移動方法では持ち込みができませんでした」
「そっかー。どれくらいで手に入るの?」
「今月中には届くと思うんですが…スラグホーン教授のところに届くようになっています。植物の発送は梟便とは別のルートになるみたいなので」
「ああ、確かに…雨風に晒されたら困るしねー」
梟便の梟たちは雨風にも負けず相手先へと荷物を届けられるほど優秀だが、その中身の保障はできない。
「へぇ…日本では庭で栽培してる人もいるんだね。こっちでは"庭に埋めてはいけない花"って言われているよ」
「まぁ…見た目は綺麗ですし。同じく毒を持つ水仙…えっと、ナルキッソスもイギリスでは"希望"の象徴ということで植えている人も多いんではないんでしょうか」
「あー、確かにねー」
しばらくして、自分の世界に入っていったのかダモクレスはぶつぶつと呟きながらノートに目を走らせ始めた。
こうなるとほぼ独り言になるので、キラはサンドイッチに手を伸ばすことにした。
と、不意にセブルスが背もたれから体を起こしてティーカップを手に取った。
一度匂いを嗅いだところで、カップを置いて杖を振った。
どうやら自分で淹れなおしたらしい。
くん、と再び香りを吸い込めば、ふぅ…と息が漏れた。
(夏休みの間、一度も飲まなかったな…)
ほんの少し、心が落ち着くような気がした。
「……全然眠れないんですか?」
恐る恐る、と言った様子でキラが問うてくる。
「夜…少しの間なら、眠っている気は…する」
「何か心配事でもあるんですか?」
「――いや…夏の間、忙しくて寝る時間が取れなくて…まだ気が立っているんだろう…」
セブルスは片手でこめかみを揉み解すように額を押さえながらそう言った。
夏休みの前半は単なる寝不足であったが、後半から今にかけては精神的なものによる不眠だという自覚はあった。
しかし、それはキラに言うようなことではなくて。