第13章 二つ目の年
「落ち着かない、みたいな感じですか」
「そうだな…」
それきり、セブルスは口を閉ざしてアプリコットティーをゆっくりと飲み干すことに専念した。
(こいつに言うことではない…)
エメラルドグリーンの瞳が、心配そうに自分を見ていることは分かっていた。
しかし、セブルスはそれに気づかない振りをして、再びソファに深く体を預ける。
セブルスをじっと見つめながら、キラは自分にできることはないかと考えを巡らせた。
身長が伸びたせいなのか、以前より鉤鼻が目立ってきたように思える。
外国人の顔立ちは随分大人びていて、四つほどしか歳が離れていないというのが信じられないくらいだ。
そんな"大人"な彼がここまで疲弊するなんて、一体何があったのだろうか。
知りたいと思いはすれど、きっと彼はそこへ踏み入ることを嫌がるに決まっている。
(何かないかな…落ち着けるような…ラベンダーとか……)
あれこれ考えている内に、自分が眠くなってきた。
そうしてキラは、意識を手放した。
唐突に、肩にこてんと頭が倒れてきた。
「……」
突然のことに一瞬目を見張るが、寝息を立てるキラの顔に髪の毛がかかっているのをセブルスはそっと払ってやった。
艶やかなわりにさらりとした手触りは、同じように真っ黒な自分の髪とは全く異なってドキリとする。
否…何となく思い描いたふわふわしたものとは違っていたからかもしれない。
するり、と自分の手から零れ落ちる髪からアプリコットが仄かに香った。
「…ダモクレス。薬を盛ったな?」
「バレた? ほんのすこーしだけね」
ダモクレスはキラのノートから顔を上げもしない。
「俺だって心配なわけですよ。薬使えば一発なのにさー。なんで嫌がるかねー」
せっかく俺が紅茶淹れてあげたのに、飲まないなんてひどーい、と棒読みで言った。
「……」
巻き添えを食らったキラは夢の中。
規則正しい寝息が、心を穏やかにしてくれるのか。
瞼が少し下がってきた気がする。
セブルスはそれに抗わず、素直に目を閉じることにした。