第13章 二つ目の年
その様子をキラはじっと見つめて、小声でダモクレスに尋ねた。
「…何だかすごく疲れているみたいですけど…何かあったんですか?」
「あー…最近、よく眠れないみたいでねー」
苦笑するダモクレスをキラは心配そうな顔で見上げる。
「え…何かあったんですか?」
「んー…うんと…夏休みに、色々とあった…みたいだよ」
珍しく歯切れの悪いダモクレスはそれ以上は何も語らない。
普段なら必要以上におしゃべりの彼なので、どうやらセブルスのかなり個人的な事情が理由と思われた。
「そうですか…」
キラは眉をハの字に下げてセブルスを見つめる。
(こんなに疲れてるところに予習のお願いなんてできないよ…)
元々顔色は悪かったが、そこへさらにくっきりとした隈ができている。
「今日は俺が勉強見てあげるよー」
「えっ」
教えてくれるのは嬉しいけれど、大丈夫だろうか。
「そんな顔しないのー。大丈夫、今日はトリカブトのことも早く知りたいし、長々おしゃべりしたりしないからー」
「すみません…ありがとうございます」
「いいのいいのー、give&takeだって。それじゃ、早速始めようか」
「はい!」
そうして始まったダモクレスのレッスンは、あっという間に幕を閉じた。
教科書貸して、と言われ、付箋の付いた教科書を渡して20分程。
「はい、終わり!」
にっこり笑ってダモクレスが宣言した。
「え、えぇ?!」
「はい、これ」
ダモクレスの手元から返ってきた教科書には材料の分量、混ぜる時間や火にかける時間などの修正が入っていた。
「あ…ど、どうも…」
(お、終わっちゃった…っていうか私、全然質問してないんだけど…)
セブルスはキラに考えさせようとする教え方だったため、それなりに時間をかけて予習をしていたのだが。
教科書を数ページめくって見ると、付箋をつけた部分以外の所にも注記がついている。
「一番いいのは、教科書通りに一旦作ってからこっちのやり方でも作り直すこと。授業で時間が余るかどうかわからないなら、初めにこっちで作って、その後余裕があったら教科書通りに作ってごらん」
隣の鍋との比較もいいけど、自分でやる方が違いがわかって結構面白いよー、時間配分も上手くなるしね、とダモクレスは研究者の顔で言った。