第13章 二つ目の年
「そんな大げさな…」
「でも、また来年もそんなことになるなら、私の家に遊びに来るのよ! もちろんアニーも一緒よ!」
自分のことを思ってくれていることがよくわかって、キラは破顔した。
ホグワーツ特急から降りた後は、一年生は去年のキラたちと同じように小さな船に乗り込んで行った。
二年生からは馬車に乗るらしい。
「うわ…おっきい馬だね!」
初めて見る黒馬の存在感にキラは目を丸くする。
日本の動物園で見た馬よりも二回りも大きいのではないだろうか。
鬣も瞳も真っ黒で、何だか地獄の使者のようである。
黒く大きな馬に目を奪われているキラに、キャリーとアニーが変な顔をする。
「何言ってるの、キラ。馬なんてどこにもいないわよ」
「え?」
キャリーの言葉にアニーを見てみるが、彼女もこくりと頷いている。
「あたしには馬車しか見えないよ…」
「うん? 馬車なんだから馬はいるでしょ?」
「だから、馬車しか見えないの。車しか見えないってことよ」
「ええ?!」
こんなに大きな馬が見えない?
キラはキャリーとアニーが嘘をついているのかと思ったが、そんな嘘をついて一体何になると言うのだろう。
「キラはセストラルが見えるんだね」
グラエムが背後からやってきて、黒い馬の鼻先をそっと撫でた。
「セストラル…?」
「馬の名前さ。彼らは…死を見たことのある者にしか見えないんだ」
「死、を?」
「そう。身近に居た人が亡くなったことがあるんだね」
グラエムの静かな声が、数年前の記憶を思い出させた。
小学生の頃、隣に住んでいたおばあちゃんが亡くなった。
異人だ、瞳の色が違う、と近所の人からは敬遠されがちだったセシリーとキラにとても良くしてくれた優しいおばあちゃんだった。
詳しいことはわからなかったけれど、病死と言う話だった。
お葬式に参列したキラは、そこで初めて"死"と言うものを知った。
隣家の前を何度通ってもあのおばあちゃんの姿はもう見られない。
実感したのは、お葬式が終わって数日後だった。
もう二度と会えないのだ、と。