第12章 夏の始まり
半分でも残っていれば何とかなる。
しかし、全てとなれば話は別だ。
ブルーム家だけが育てている稀少な植物は決して少なくない。
それらを決して枯らさず、交配させて数を増やしてきたのだ。
「ホグワーツにも沢山屋敷しもべ妖精がいると思うけれど…彼らに会うことは殆どないわ。でも、ブルーム家では彼らに会わずに生活することはできないの。それに…譲さんは当然魔法は使えないし、菫だってそう。最低限のことだけは、きっとお母様から教えてもらったと思うけれど…だから、常に屋敷しもべ妖精が二人の傍に居るわ。そこへ、あなたを連れて行くことはできなかったのよ」
ブルーム家のことを知らなければ興味を持つことも無いだろうと、これまであえて語ることはしなかったのだ、とセシリーは言った。
すっかり温くなったアプリコットティーを飲み下して、キラはちゃぶ台に突っ伏した。
「何よ…それ……。じゃあ、お母さんは魔法使いじゃないの?」
「えぇ…。煙突飛行粉なら使えると思うけど…イギリスから日本では、遠すぎて使えないわ。国境を越えるにはマグルと同じように出国、入国審査が必要だから、結局飛行機で移動するのが一番だし…」
「…お母さんは、マグルってこと?」
「それは…何とも言えないわね。イギリスにもし小さな頃から住んでいたら、ホグワーツに通っていただろうけど…。お母様のことだからマグルだともスクイブだとも言ってないはずよ」
「……そう…」
ルシウスはこれを気にしていたのか。
あの日、ヴァイオレット・ブルームが自分の母親だと言われた後。
彼はしきりに両親のことを尋ねてきた。
マグル嫌いなナルシッサの手前、"マグル"という言葉を使ったりはしなかったが、きっとそう言う事なのだろう。
ブルーム家の現当主がマグルか魔法使いなのか。
それは彼らにとって重要なことなのだ。
菫はハーフブラッドになるが、魔法が使えれば良し、そうでなければ今度はスクイブとして侮蔑の目で見られるに違いない。
ほとんど魔法が使えない、ということは秘密にしておいた方が良さそうだ。
「…お母さん達、帰ってくるのお盆…だよね?」
「そうね、いつも通りならお墓参りに帰ってくるはずよ」
「いつまで日本にいるのかな…やっぱり、すぐ戻っちゃうのかな」