第12章 夏の始まり
『一体どういうこと…?』
菫の困惑した声に、スカーレットとセシリーは顔を見合わせる。
この現象は魔法使いの素質を持つ者が見せる"覚醒"に違いない。
それが、こんな形で出てくるなんて。
『キラは、魔法使いの素質を持っているみたいだわ。この位の歳の頃、身を守るためだとか…怒って自分の気持ちが制御できないときに、魔法が暴発することがあるの』
『キラが魔法使い…?』
菫にも魔法使いの素質はあったが、それはとても微弱だった。
わざわざ魔術学校へ行かせるほどでもなかったため、菫はマグルとして育った。
しかしその娘であるキラの魔法の力は中々強く、このままここに居座れば全ての植物が枯れてしまう可能性があった。
そんなことになってしまえば家業が成り立たなくなる。
すでに半分近いほどの植物たちが枯れてしまったと屋敷しもべ妖精からの報告を受けたスカーレットは頭を抱えた。
『なんてこと…。ダメだわ、この子はここに置いておけない』
『お母様、この子はまだ幼くて…両親が必要です』
『いいえいいえ、ダメ。日本に連れて帰って頂戴、今すぐ…』
スカーレットは幼い曾孫の眠る姿に唇を噛んだ。
植物の世話はもちろん、屋敷の手入れや給仕など、生活のほぼ全てのことに屋敷しもべ妖精は関ってくるため、キラが彼らを見ないようにすることは不可能だった。
しかし、菫にはここに残って貰わなくてはならない。
当主としての振る舞い、すべきこと、知識を引き継ぐ時間、そして自分の年齢を思えば、後数年も待つことは憚られた。
そうして、キラは眠ったままイギリスから出て行くこととなった。
忘却術を掛けられたキラは両親と共にイギリスへ来たことをすっかり忘れていた。
キラが小学校に上がるまでは菫と譲は半月ごとにイギリスと日本を行き来していたが、キラが成長するに連れて日本を離れる時間がどんどん長くなっていった。
しかし、キラがブルーム家に立ち入ることは許されなかった。
再び同じようなことが起きれば、成長したキラの力で今度こそ全ての植物が一瞬で枯れてしまうかもしれないからだ。