第12章 夏の始まり
「どうしてそれを…」
「こっちが訊きたいよ! どうして隠してたの?!」
キラは立ち上がって肩をいからせ、セシリーに噛み付く。
小さい頃から母も父もあまり家に居なかった。
小学生半ば頃からは年に数回しか会うことができなくて。
世界中で仕事をしているから仕方ないんだ、と我慢してきたのにずっとイギリスに居たなんて。
それなら帰ってくるのを待たずとも、会いに行くことだってできたはずだ。
「おばあちゃんは魔法が使えるんだから、お母さんのところに連れて行くなんて簡単でしょう?!」
両親に会いたいと泣いて祖父母を困らせたことは何度もあった。
枕を濡らす夜だって、数え切れないほど。
姿現しなどと言う移動魔法があるのなら、毎日でも会おうと思えば会えたに違いない。
堰を切ったように溢れ出る憤りが、キラの視界を滲ませる。
(なんで、なんで、なんでなんでなんで――?!!!)
自分は本当の子どもじゃないかもしれない。
そんな不審があって中々訊けなかったはずだったのに、一度口に出すと止まらない。
「お母さん達だって…あんなに手紙に会いたいって書いてくれてたくせに…帰って来れるんじゃない!!」
ブルーム家の当主ということは、母親も魔法使いなのだ。
姿現しで会いに来ることなど、造作も無いはず。
「違う…違うのよ…!」
「何が違うの?! 嘘つき!!」
怒っているのに、ぽろぽろと涙が溢れてきてセシリーが今どんな表情をしているのか全然分からない。
ただ、自分と同じエメラルドグリーンの瞳がこちらをしっかりと見ていることだけは分かった。
「キラ。落ち着きなさい」
いつの間に仕事場から戻ってきたのか、祖父のぼそっとした声が背中を撫でた。
「おじいちゃん…」
ぎゅっと力の入った肩をようやく落として、キラは手の甲で目元をごしごしと拭った。
「…全部話してあげなさい」
祖父の言葉にセシリーは頷き、キラに部屋に入るように促した。
「お茶を用意してきます。キラは緑茶?紅茶がいい?」
「…アプリコットにして」
「分かったわ」
一年のホグワーツでの生活の中で、アプリコットティーはキラの気持ちを落ち着かせるという重要な役割を担うようになっていた。