第12章 夏の始まり
マルフォイ邸で受けた衝撃に呆然としたまま、キラは日本に帰ってきた。
キングズクロス駅にゴティに送り届けてもらい、迎えに来た祖母と飛行機に乗って戻ったのだが、キラは母親のことを祖母に訊けずにいた。
(どうして言ってくれなかったんだろう…)
ブルーム家の当主が自分の母親だなんて。
中々会えないと思っていた両親が、一年間も近くにいたのだ。
ブルーム家の屋敷は当然イギリスにある。
ホグワーツ入学前にキラを連れて行ってくれてもいいはずだ。
もしかして、自分はブルーム家と、つまり両親や祖母たちと血が繋がっていないのかもしれない…キラはそんな風に思い始めていた。
小さな頃、お前は橋の下で拾った子だよ、なんて言われたことはあったけど。
誰もが言われる冗談だと思っていたわけで。
もしかして、もしかすると…。
そんな気持ちが胸に広がっていた。
「どうしたの、キラ。帰ってきてからずっと変よ。体調でも悪い?」
様子のおかしいキラを見かねたセシリーは、縁側でぼーっと風鈴を眺めている当人に声をかけた。
夫――キラにとっては祖父であるが――とは普通に話しているように見えるが、何故か自分と話すときは目が合わないのだ。
「んー…」
縁側の柱に凭れたまま、キラは気の抜けた返事とも言えない声を発する。
それにセシリーは小さくため息をついて、彼女の隣に腰を下ろした。
「キラ?」
「……」
「黙っていてはわからないわ」
セシリーの困ったような口調に、しばらくキラは無言であったが、やっと口を開く。
視線は変わらず風鈴に向けたままだ。
「――お母さんって、今どこにいるか知ってる?」
「さぁ…あの子は忙しいからねぇ」
予想通り、そしていつも通りの返答に、キラはイラッとした。
「イギリスにいるって聞いたんだけど」
「あら、そうなの?」
知らなかったわ、という素振りを見せるセシリーをキラは思わず睨みつけた。
「どうしたの、そんな怖い顔して」
突然怒り出した孫娘に、セシリーは戸惑った。
「嘘つき。どうしてそんな嘘つくの?! お母さん、イギリスにいるんでしょ! ブルーム家の当主なんでしょ?!」