第12章 夏の始まり
(寝過ごした…?!)
ベッドから飛び降りて部屋の外へ出ようとしたときだった。
コンコンコンとノックの音。
「Ms.ブルーム! ディナーのお時間です!ご準備を!」
「は、はいぃ!!」
ゴティの声にキラは飛び上がりながら大急ぎでドレスに着替え始める。
どうやら寝過ごしたわけではなかったようだが、寝ていたために顔がぬぼっとしているようにしか見えない。
髪の毛もぼさぼさだ。
ドレスに全然合っていないがどうにもできないので手櫛で撫で付け、何度かギュッと目をつむって、寝起き感を拭う努力をした。
せめて、と色付きリップをくるりと回し塗りしてから部屋の扉を開けた。
「ご準備はお済みですか!」
ゴティが恭しく頭を下げる。
「は、はい。お待たせしました…」
「それではご案内します!」
きびきびと前を歩くゴティ。
その薄汚れた衣服を後ろから眺めながら着いていく。
(もっと綺麗な服にした方がいいのに。このお屋敷に似合わないなぁ…)
そうすれば餓鬼みたいな雰囲気も薄れるだろう。
「こちらへ」
ギィ、と重そうな音がして扉が開く。
そこは晩餐会会場と言っても差し支えないような広い部屋に、大きな長いテーブルが真ん中にどん、と構えていた。
ルシウスとナルシッサはすでに席に着いていた。
キラはゴティに案内されるがまま、引かれた椅子に腰掛けた。
「お待たせしてすみません」
頭を下げるキラに、ナルシッサが薄く微笑んでくれた。
ルシウスはにこりともしなかったが、特に機嫌が悪そうというわけでもないようであった。
これから一体どんな話が聞けるのだろうかと、キラは期待半分、不安半分であった。
祖母に直接聞いたわけではないので、内緒にされているということではないのかもしれない。
けれどわざと話さなかったのかも、と一度思ってしまうと疑心暗鬼に囚われて。
隠された秘密をこっそり、しかも全くの赤の他人から聞き出してしまう――という罪悪感が心の隅に生まれていた。
「では、食前酒からお持ちいたします。Ms.ブルームは洋ナシのアペタイザーでございます」
ゴティとは別の屋敷しもべ妖精が指を鳴らせば、目の前に瓶とシャンパングラスが現れた。
瓶がふわりと浮き上がり、自然とグラスに液体が注がれる。