第12章 夏の始まり
「ハイ! ご主人様!!」
「客人は丁寧に扱うようにと言ったはずだが」
ルシウスの言葉にゴティと呼ばれた屋敷しもべ妖精が体を強張らせる。
「部屋の用意は」
「で、できましてございます!」
「ならいい。下がれ…後で仕置きだ」
「ヒッ…」
息を呑む音と同時にバチンという音がしてあっという間にゴティは姿を消した。
そんな二人の様子をキラは思わず凝視してしまっていた。
ホグワーツで見た屋敷しもべ妖精よりも粗末な衣服、怯えるような仕草。
(本当に召使いって感じなんだ…)
人間に仕え、奉仕することが彼らの存在意義だと言う。
見た目はやはり受け入れられないが、その存在に関してはそういうものかと受け入れつつあった。
「わたくしが部屋に案内しましょう。ついていらして」
「あ、はい。ありがとうございます」
「後で使いをやろう。それまでゆっくり休むといい」
「失礼します…」
ルシウスに深々と会釈をして、キラはナルシッサを追った。
彼女に案内されたのは、いくつもある客室の中の一室。
重厚そうな真っ黒の扉を押し開けてみれば、部屋の一番奥にキラの大きなトランクが運び込まれていた。
ベッドの上には真っ白な箱が載っている。
「開けてみて」
ナルシッサに言われるまま、キラは蓋を取る。
「わ…!」
中には真っ黒なドレスが入っていた。
手に取って広げてみれば赤い糸の細かい刺繍が施されているのがわかり、キラは目を輝かせた。
「ルシウスからあなたへのプレゼントよ」
「えっ」
こんな高そうなドレスが?と目を丸くするキラに、ナルシッサは薄く微笑んだ。
「ブルーム家のお嬢様に相応しいものよ。ディナーのときに着替えていらしてね。それから…もうすぐ昼食時だけれど、食べられそうかしら? 難しいようならアフタヌーンティーセットを後で届けるわ」
「えぇっと…ティーセットがいいです」
後で届けるということは、この部屋に届けてくれるということだろう。
ディナーだけでも緊張するのに、この上ランチまで同席というのは避けたかった。
すでに今の時点で疲れていることもあって、キラはのんびり一人で過ごしたかった。