第12章 夏の始まり
気持ち悪さが落ち着いたところで辺りを見回して見れば、すでにどこかの敷地内のようだった。
少し離れた後ろの方に黒い門が見えた。
石畳みの上をゆっくりと歩いていく。
前方に見えてきたのは、大きなお屋敷。
キラの今まで見てきたような日本の家屋とは当然全く違う。
どう表現すればいいのか、キラの知っている言葉ではきっと足りないだろう。
古そうな洋館、だけれどどこもかしこも手入れは行き届いているように見えた。
キラの隣を歩く女性はここの住人なのだろうか。
「あの…あなたは…?」
おずおずと尋ねてみる。
「あら。自己紹介がまだだったわね、ごめんなさい。わたくしはナルシッサ・ブラック。あなたをここに招待したルシウスとは婚約しているの」
「ブラック家…」
その姓にキラはシリウスを思い出した。
と、それに気づいたのかナルシッサは綺麗な顔を歪めて、
「シリウス・ブラックという男は確かに、残念ながら従兄弟だけれど、わたくしはあれを認めていないの。同じブラック家の人間だと思わないで頂戴ね」
そう一気にまくし立てた。
「は、はい…」
やはり相当な確執があるようだ。
キラは勢いに押され頷くより他なかった。
そうして連れられて足を踏み入れたマルフォイ邸。
玄関ホールの広さに呆気に取られていると、真正面の階段から降りてくる人の姿が見えた。
クリスマスのときとは違って引きずるようなローブは着ていなかったが、ブロンドの長い髪が揺れる。
「Mr.マルフォイ…お招きいただきありがとうございます」
緊張した面持ちでキラはルシウスを見上げた。
「ようこそ。待っていたよ。今夜は私たちしかここにはいない…肩の力を抜きなさい」
彼の父親…マルフォイ家現当主、アブラクサス・マルフォイは今日は不在のようだ。
挨拶をしなくてはならないのだろうかと不安に思っていたキラだったが、どうやら杞憂だったらしい。
ほっと一息着くキラの肩にナルシッサがそっと手を置く。
「ゴティの姿現しが随分乱暴だったみたいだわ。まだ顔色が悪いもの」
「……ゴティ」
冷たい声色でその名を呼んだかと思えば、すぐにバチンと音がして屋敷しもべ妖精が現れた。