第12章 夏の始まり
修了式の後。
気もそぞろな生徒たちがホグワーツ特急にどんどんと吸い込まれていく。
キャリーとアニーも同じく、颯爽と特急に乗り込んでいった。
そしてコンパートメントの窓越しに別れを告げる。
「またね、キラ。お土産楽しみにしてて!」
「元気でね…」
「うん、ありがとう。二人とも、楽しい旅行になるといいね!」
シュー、と音がしてホグワーツ特急が動き出す。
バイバイ、と手を振って二人が見えなくなるまで見送ろうと思った矢先のこと。
「キラ・ブルーム様ですね? ご主人様がお待ちです!」
「えっ?!」
耳に付く甲高い声が聞こえたと思ったら強く腕を引かれ、その瞬間ぐりん、と世界が歪んだ。
激しく揺さぶられるような衝撃に眩暈を覚えた頃、バチンと音がして、地面にどさっと膝を着いた。
「う…き、ぼぢわる…」
肩で大きく息をして、込み上げるものを押さえ込む。
「Ms.ブルーム。ご主人様がお待ちです!」
またも甲高い声。
もしかして、これは。
ハッとして見れば、ああやはり。
キラの大嫌いな屋敷しもべ妖精だった。
「う……」
気持ち悪い。心身ともに。
地面に蹲りたい思いで一杯になっていると、誰か女の人が駆け寄ってくるのが見えた。
「大丈夫かしら? 姿現しは初めてだったのね」
そう言って彼女はキラの背中を撫でてくれる。
しかしそんな状況もお構いなく、屋敷しもべ妖精は喚く。
「ナルシッサ様! Ms.ブルームをご主人様がお待ちです!」
「ええ、ええ。わかっています。わたくしが連れて行きますから、ルシウスに伝えてちょうだい」
「かしこまりました!!」
再びバチン!と音がして、屋敷しもべ妖精が消える。
その様子にキラは先ほどまで気持ち悪かったことも忘れてポカンと彼がいた場所を見つめた。
「消えた…」
「姿くらまし、姿現しという移動する術よ」
「移動する…?」
「ええ。ホグワーツからここに来たのも姿現しよ。慣れない内は気分が悪くなる人も多いわ」
さぁ、立てるかしら?とナルシッサ様、と呼ばれた女性がキラの腕を取り、そっと支えてくれた。
「ゆっくり歩いて行きましょう」
赤い唇が優美な弧を描いた。
綺麗な人だ。
キラは単純にそう思った。