第12章 夏の始まり
あっという間に6月が過ぎていった。
学年末の試験や提出用のレポートのためにキラだけではなくホグワーツ中の全生徒が足繁く図書室に通ったり、教授陣の下へ通った。
そうしてようやく試験が終わった、と思えば慌しく帰省の準備が始まる。
試験の結果が良かろうが悪かろうが、長期休暇はやってくる。
キャリーたちが夏のバカンスに心躍らせながらトランクに荷物を詰め込んでいる頃。
キラは、温室の花壇の前で立ち尽くしていた。
「ど、どうしよう…」
キラの植えたバラは一つ二つ、花をつけた。
とても小ぶりなバラだったが来年にはもっと成長して数も増えるだろう。
しかし、今更気づいた。
帰省期間中、三ヶ月も放置してしまっては確実に枯れてしまう。
とはいえ掘り起こして持って帰ることもできない。
セブルスの百合、ダモクレスの薬草とて同じこと。
一体どうするつもりなのだろうか。
そう思っていると、背後から誰かの足音が聞こえてきた。
振り返ってみれば背の高い彼だった。
「こんにちは」
「…何かあったのか?」
「えぇ…自分が居ない間、どうしたものかと思って…」
キラの言葉にセブルスは片眉を釣り上げる。
何を言っているのだろう?といった具合だ。
「水遣りとか、虫取りとか…」
どうして通じないんだろうと思いながら、キラはそう続けた。
「夏の間は屋敷しもべ妖精が面倒を見るから問題ない」
さも当たり前のようにセブルスは言う。
「あ……そうなんですね」
「心配なら指示書でも書いて置いておけばいい。奴らは命令には忠実だ」
「へぇ…」
見た目はちょっとダメだけど中々使える妖精なのね、と思いながら、キラはセブルスに礼を言った。
セブルスはチラ、とキラを見ただけで百合の咲く花壇へと向かう。
その芳香を楽しむわけでもない。
摘んで部屋に飾るわけでもない。
ただただ、百合の咲く風景を鑑賞する。
真っ白な花弁の向こうに誰を見ているのか。
彼の後姿をしばし見つめていたキラだったが、そっと温室を後にした。
指示書を作って戻ってくる頃には、彼はもういなくなっていた。