第11章 Dの道
「それは…魔法生物かなにかですか?」
二足歩行の動物のようにも見えるそれ。
「これは……Werewolfだ」
「うぇ…wolf?」
「狼人間のことだ…噛まれると、その人間も狼人間…人狼になって人を襲うようになる」
「え?!」
「普段は人間として生活しているが、満月の夜に人狼になる。奴らは誰彼かまわず攻撃してくる危険な生き物だ」
「こ、怖いですね…」
挿絵を凝視するキラにかまわず、セブルスはパタンと本を閉じてしまう。
「満月の夜は、外に出ない方がいい。…知っている奴が"そう"じゃないという保障はないからな。ところで。もう夕食の時間だが、急がなくていいのか?」
セブルスの言葉にキラはがたりと音を立てて立ち上がった。
「も、もうそんな時間ですか?!」
「声が大きい。さっさと片付けて行け」
「す、すみません…では失礼します!」
机上に広げた本をかき集めて、キラは大急ぎで図書室を出て行く。
マダムピンスが小走りで去っていくキラの後ろ姿を苦々しい顔で見送っていた。
「……」
目の前に積んだのは人狼に関する考察が書かれたものばかり。
そのどれを読んでも、人狼は危険である、と書いてあった。
(危険以外の、何ものでもない。そのときは隔離しているからと言って、安全なわけではない…)
セブルスは複数ある本の中から一冊だけを借りて、図書室を後にした。
夕食の時間に少し遅れてやってきたセブルスを見つけたダモクレスは手を振るでもなく、ほんの少し首を伸ばして彼を待つ。
一冊の本を抱えた彼はいつものように眉間にしわを寄せて歩いてくる。
挨拶もなく向かいの席に腰を下ろすので、ダモクレスはすかさず彼の持っている本に手を伸ばした。
「ふぅん…こんなの借りてきて、どうしたのさ」
パラパラと本を開いて目を通す。
「…ちょっとな」
「あ、そ」
表紙に書かれたタイトルは、"狼を殺す方法"。
一体どうしてセブルスがそのような本を借りてきたのだろうか。
(人狼にでも会ったかな)
セブルスをチラリと見るが、感情を読ませない能面のような顔をしていた。
「…へぇ」
ページをめくる手が止まる。
そこには彼の興味をそそる一文があった。