第11章 Dの道
授業のない土曜日の昼下がり、図書室のいつもの席に座ってキラは草花図鑑を見ていた。
先日見た黄花節分草の英名はウィンターアコナイトだと教えてもらえたが、まだまだ知らない名前はたくさんある。
キラは挿し絵つきの図鑑と自分の記憶を結びつけようとしていた。
(アコナイト、っていうのがトリカブトのことなんだ…)
草花は別名が沢山あるが、それは日本だけでなく海外も同じらしく。
トリカブトはアコナイト、モンクスフード、ヘルメットフラワー、ウルフスベーンと別名が四つもあった。
しかしそこには、トリカブトには猛毒があるということしか書かれておらず、薬として使われるという表記はなかった。
(こっちでは使わないのかな…?)
自生しているトリカブトの種類が薬に向いていないのかもしれない。
さすがにキラにもトリカブトの種類を細かく見分けることはできないし、知っているトリカブトの種類と図鑑に書かれているものとの照らし合わせはできなかった。
キラがふわ、とあくびをしようと大きな口を開けたときだった。
「見ーちゃった」
「あ…」
大急ぎで口元を手で隠すが時すでに遅し。
ダモクレスがククク、と可笑しそうにキラを見ていた。
「何見てるのー?」
そう言って、ダモクレスはいつもセブルスが座る席に腰を下ろして図鑑を覗き込んだ。
「へぇ。アコナイトに興味がおありで?」
「興味、というか…こっちでなんて言うのかわからなくて」
「ああ、そっかー」
キラが普段持ち歩いている辞書には花の名前なんて当然いくつも載っていない。
「薬になるんなら別だけど、毒だしねー。俺もよく知らないな」
「…やっぱり、こっちでは薬としては使わないんですか?」
「薬? まさか。猛毒だよ?」
そんなこと考えたこともないし常識だよ、とダモクレスは不思議そうな顔をする。
やはり西洋では使わないようだ。
キラはどう説明したものか、と悩みつつ口を開いた。