第11章 Dの道
キラはハナハッカエキスを魔法界だけじゃなくてマグルの店でも売り出せばいいのに、と思っていた。
相当深い傷でもたちどころに治るのだ。
飛ぶように売れるに違いない。
そんなことを考えていると、目の端に黄色い花が映る。
それは温室の外に自生している黄花節分草だった。
キラはしゃがみこんで、可憐な六花弁の小さな花をガラス越しに見る。
節分の頃に花を咲かせるから、節分草というその花。
(…たしか、これはキンポウゲ科だから毒があるんだよね)
キンポウゲ科に分類される植物はほとんど毒性がある。
その代表格がトリカブトだ。
こちらは可愛らしい小さな青紫色の花を咲かせる。
(節分草って英語でなんて言うんだろう?)
「キラ、そろそろ…」
アニーが傍にやってくる。
「あ、うん。…ねぇ、この花の名前、わかる?」
「その黄色い花? winter aconiteだったと思う…」
「ウィンターアコナイト?」
「お家で咲いているのを見たことがあるから、合ってると思う…」
「そっか。アニー、ありがとう」
キラが礼を言うとアニーは少しはにかんで頷く。
それから二人そろってキャリーの待つ席へと戻った。
今回の授業でもキラは嬉々として土をほじくり、薬草を摘み取っていた。
鉢植えの中からたまに顔を出すミミズに他の女子生徒は悲鳴を上げ、男子生徒は呻くがキラには関係なかった。
ミミズはそのまま見なかったことにして上から土をかぶせるのだが、その土を突き破って出てくる彼らにキャリーは心臓が爆発するんじゃないかと思うほど驚かされた。
「手袋の問題じゃないわ…! もう嫌…!」
魔法薬学の授業では、キャリーは苦もなく虫を刻んだり潰したりしているのにどうしてミミズはダメなのか。
「不思議だね」
「ミミズは材料にならないからかな…?」
アニーとキラはくすくすと笑いながら、涙目になりつつ奮闘するキャリーを見守っていた。