第10章 見つめるその先
(Ms.エバンズ? …Lilyって……あっ)
唐突に、合点が行った。
彼があんなに百合の花を大切に育てているのはなぜなのか。
似合わないとずっと思っていたけれど、今わかった。
やがて、桜吹雪がやんで足元に広がった花弁も少しずつ色を失って消えていく。
「あ…消えちゃう…」
名残惜しそうなアニーの声にキラは我に返った。
「セブルス、これを」
無理やりのようにオニユリをセブルスに持たせて、キラはスラグホーンに向き直る。
「教授、ありがとうございました」
「なんのなんの。久しぶりにSAKURAが見られて私も嬉しかった。今度は君のSAKURAを見せてくれ」
祖母の桜は枝垂桜だった。
「はい。頑張ります」
スラグホーンが去っていくと同時に、周りに集まっていた生徒も散り散りになった。
「いやー! 凄いねーキラは!」
ね!とダモクレスがセブルスの肩を叩く。
「あ、ああ…」
リリーの後ろ姿からようやく目を離して、手元の燃えるような色のオニユリを見つめる。
オニユリの黒い斑点が自分自身のどす黒い何かに見え始めたそのとき、ふわ、と粒子になってオニユリが消えた。
「ごめんなさい、魔法、持続しなくて…」
申し訳なさそうにセブルスを見上げるエメラルドグリーンの瞳から思わず目をそらす。
「これぐらいしかプレゼント思いつかなくて」
「いや、…大したものだった」
「へへ…教授の力を借りてしまいましたけどね」
セブルスからの褒め言葉が嬉しくて、キラは思わず照れ隠しにそう言った。
「一年生でこれだったら充分だってー」
ほんっと凄かったよ!とダモクレスがキラの頭を撫でる。
「セブルスへの誕生日プレゼントだったのに、俺たちまで見せてもらっちゃって、ラッキーだったよねー」
「ええ、本当に!」
「あのお花は、なんて言う名前なの…?」
「あれは、桜…Cherry Blossomsって言うんだけど…日本語で、SAKURAって覚えてもらえると嬉しいな」
「SAKURA…二種類あったような気がしたけど…」
アニーは瞳を閉じて先ほどの光景を思い出す。