第10章 見つめるその先
(結局、私が求める満開の桜にはできなかったんだよね…)
罰則と称した魔法の特訓のおかげで、桜の花吹雪を出すことには成功したキラであったが、肝心の桜の木自体を出すことはできなかった。
もともと"オーキデウス"という呪文は花を咲かせるものなので、樹木までは再現できないらしく。
キラは別の呪文を教えてもらったが習得には至らなかった。
そのため、スラグホーンの記憶の中にある、祖母が描く桜の木を再現してもらうことにした。
これで本当の桜の姿を見せることが出来るだろう。
また、中庭での魔法も禁じられていたが寮監の監督の下で杖を振るので規則を気にする必要性もなくなった。
そしてキラは桜とは別に百合も出すことに成功していた。
温室にある百合とはまた別の種類のものだ。
百合好きなセブルスにアジア原産である暖色の花弁のオニユリを見せたい。
杖を握り締め、幾度目かの深呼吸。
(大丈夫、できる…)
「あ…」
セブルスが歩いてくるのが見えた。
その後ろを少々小走りでダモクレスが追ってくる。
「スラグホーン教授。お願いします」
「他でもない、君の頼みだ。任せなさい」
「ありがとうございます」
頭を下げて、そっと汗ばんだ手のひらをローブに押し付ける。
「キラ…これは…」
まさかスラグホーンが居るとは思っても居なかっただろう。
二人は一体何が始まるのか、と困惑しているようだった。
「セブルス、見ててください。私からの誕生日プレゼントです」
杖を掲げて、呪文を唱えた。
「オーキデウス」
キラの背後で一拍遅れてスラグホーンが杖を振った。
その瞬間。
「わ…っ!」
「綺麗……」
キャリーとアニーが歓声を上げる。
中庭に、大きな木が現れた。
その木は枝が重たげに下を向き、葉がない代わりに薄いピンク色の花がびっしりとついている。
キラが杖を振るたび垂れた枝が揺れ、花びらが風に舞う。
「すごい…」
ダモクレスも絶句してその光景に目を奪われた。
花びらの吹雪がセブルスたちに降りかかる。
「オーキデウス」
再度キラが呪文を唱えれば、今度は濃いピンクの花びらが舞う。
可憐な五枚花弁の花ではなく、ボリュームがあって丸みのある花だった。